[PE55] 就学移行期におけるペアレントトレーニング
実施の試みと効果の検証
キーワード:ペアレントトレーニング, 発達障害, 移行支援
問題と目的
通常学級に在籍する「発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒」が6.5%から6.8%(95%信頼区間)とされる(文部科学省,2012)昨今,発達課題のある児の早期発見,早期支援が求められていることは明白である。
また就学期においては「小1プロブレム」等の語が示すように,就学前の環境からの変化によって不適応を起こす児も多いことが確認されている。
ところで昨今では,発達障害のある児の家族への様々な支援方法が考案され,実施されてきている。その代表的な方法の1つに,専門家からのアドバイスという形ではなく親を共同治療者とするペアレントトレーニング(免田,2011)がある。
そこで本研究では,就学後の不適応の予防を目指して年長児の保護者を対象にしたペアレントトレーニングを実施し,その効果を検証する。
方 法
対象 介入当時,幼稚園または保育所在籍の年長児の母親3名。対象児は開始時70ヶ月女児A,72ヶ月男児B,80ヶ月男児Cであった。結果の公表については全員から書面による同意を得ている。
効果測定 以下の質問紙をプログラム開始前および終了後にそれぞれ実施した。
1)ADHD Rating Scale-Ⅳ(家庭版)(市川ら,2008):児の不注意・多動性・衝動性を測定する質問紙。4件法,18項目。
2)KINDL日本語版(根本,2013):子どものQOLを評価する質問紙。5件法,24項目。
3)Strength and Difficulties Questionnaire (SDQ) 日本語版(Goodman, 1997):子どもの行動のポジティブな面とネガティブな面を評価する質問紙。3件法,25項目。
4)Questionnaire on Resources and Stress(QRS)日本語版(山上ら,1998):保護者の養育上のストレスを測定する質問紙。2件法,52項目。
プログラム内容 プログラムは約2ヵ月間で全4回のセッションを実施した。各セッションは講義と個別の対応検討で構成し,1回2時間で実施した。スタッフは各回1名であった。講義テーマは導入,行動の見方,学童期の発達,認知・学習,生活スキル,対人関係,家庭での対応,マインドフルネスなどであり,免田ら(1995),荻野ら(2014),Lisa et al.(2009 谷他訳 2014)を参考にして実施した。
結果と考察
各質問紙の得点をTable 1に示した。なお,本研究では被験者が3名と少数だったため,平均値,標準偏差等の算出は行っていない。
ADHD-RSについては,対象児Bは変化がなく,対象児AおよびCは中村ら(2004)の基準によれば1SD以上の改善が見られた。保護者への対応方法の教授により,一部の対象児の行動が改善したことがうかがわれるが,後述するように今後も精査が望まれる。
KINDLは根本(2013)の基準によれば対象児Aで2SD以上の上昇が見られ,QOLの改善がうかがわれた。対象児B,Cについてはあまり変化は見られず,平均値-1SD以下であった。
SDQについてはMatsuishi et al.(2008)の基準を参考にすると,対象児AはSome needで変化がなく,対象児BはLow needからSome needとなり,対象児CはHigh needのままであった。本プログラムだけでは対象児の様々な側面を改善させることが困難であった可能性がある。
QRSについては,対象児A,Bの母はほぼ変化はなく,対象児Cの母は改善が見られた。本プログラムが保護者の養育上のストレスを一部軽減できた可能性があるが,今後も精査が望まれる。
以上のことから,本プログラムは一部の行動の改善や保護者の養育上のストレス軽減に作用した可能性があるが,介入期間が短かったこともあり,フォローアップを行ってその後の経過を確認する必要があると考えられた。また今後も被験者数を増やし,どのアプローチがどのように効果があるのかの検討が必要と考えられた。
通常学級に在籍する「発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒」が6.5%から6.8%(95%信頼区間)とされる(文部科学省,2012)昨今,発達課題のある児の早期発見,早期支援が求められていることは明白である。
また就学期においては「小1プロブレム」等の語が示すように,就学前の環境からの変化によって不適応を起こす児も多いことが確認されている。
ところで昨今では,発達障害のある児の家族への様々な支援方法が考案され,実施されてきている。その代表的な方法の1つに,専門家からのアドバイスという形ではなく親を共同治療者とするペアレントトレーニング(免田,2011)がある。
そこで本研究では,就学後の不適応の予防を目指して年長児の保護者を対象にしたペアレントトレーニングを実施し,その効果を検証する。
方 法
対象 介入当時,幼稚園または保育所在籍の年長児の母親3名。対象児は開始時70ヶ月女児A,72ヶ月男児B,80ヶ月男児Cであった。結果の公表については全員から書面による同意を得ている。
効果測定 以下の質問紙をプログラム開始前および終了後にそれぞれ実施した。
1)ADHD Rating Scale-Ⅳ(家庭版)(市川ら,2008):児の不注意・多動性・衝動性を測定する質問紙。4件法,18項目。
2)KINDL日本語版(根本,2013):子どものQOLを評価する質問紙。5件法,24項目。
3)Strength and Difficulties Questionnaire (SDQ) 日本語版(Goodman, 1997):子どもの行動のポジティブな面とネガティブな面を評価する質問紙。3件法,25項目。
4)Questionnaire on Resources and Stress(QRS)日本語版(山上ら,1998):保護者の養育上のストレスを測定する質問紙。2件法,52項目。
プログラム内容 プログラムは約2ヵ月間で全4回のセッションを実施した。各セッションは講義と個別の対応検討で構成し,1回2時間で実施した。スタッフは各回1名であった。講義テーマは導入,行動の見方,学童期の発達,認知・学習,生活スキル,対人関係,家庭での対応,マインドフルネスなどであり,免田ら(1995),荻野ら(2014),Lisa et al.(2009 谷他訳 2014)を参考にして実施した。
結果と考察
各質問紙の得点をTable 1に示した。なお,本研究では被験者が3名と少数だったため,平均値,標準偏差等の算出は行っていない。
ADHD-RSについては,対象児Bは変化がなく,対象児AおよびCは中村ら(2004)の基準によれば1SD以上の改善が見られた。保護者への対応方法の教授により,一部の対象児の行動が改善したことがうかがわれるが,後述するように今後も精査が望まれる。
KINDLは根本(2013)の基準によれば対象児Aで2SD以上の上昇が見られ,QOLの改善がうかがわれた。対象児B,Cについてはあまり変化は見られず,平均値-1SD以下であった。
SDQについてはMatsuishi et al.(2008)の基準を参考にすると,対象児AはSome needで変化がなく,対象児BはLow needからSome needとなり,対象児CはHigh needのままであった。本プログラムだけでは対象児の様々な側面を改善させることが困難であった可能性がある。
QRSについては,対象児A,Bの母はほぼ変化はなく,対象児Cの母は改善が見られた。本プログラムが保護者の養育上のストレスを一部軽減できた可能性があるが,今後も精査が望まれる。
以上のことから,本プログラムは一部の行動の改善や保護者の養育上のストレス軽減に作用した可能性があるが,介入期間が短かったこともあり,フォローアップを行ってその後の経過を確認する必要があると考えられた。また今後も被験者数を増やし,どのアプローチがどのように効果があるのかの検討が必要と考えられた。