[PG05] ミュージカルを取り入れた音楽教育プログラムにおける相互行為の発達的展開
キーワード:音楽教育, 発達の最近接領域, ワークショップ
問題と目的
近年,ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」理論を基盤とし,パフォーマンスを通して自分自身の新しい可能性を創造することを目的とした「パフォーマンス活動」が世界的な広がりを見せている。パフォーマンス活動では従来の音楽教育プログラムのように「今できること」に取り組むことではなく,「社会的にパターン化した行動を超えて発達する」(Friedman& Holzman,2014)ことが目指されている。パフォーマンス活動は現在,様々な形態のプログラムとして世界的な広がりを見せつつある。
しかしパフォーマンス活動を日本の教育・保育現場に取り入れるための具体的なプログラムは,現在まで開発されていない。そこで筆者を含めた研究グループは,教育・保育現場において実施可能な「パフォーマンス型音楽教育プログラム」の開発を試みた。具体的には,グループでの協働による創造的で即興的な活動を通して,子どもの情動的・社会的な発達を促進することを目指すため,ミュージカルを題材とした音楽教育プログラムを継続的に計画・実施した。本報告では,プログラムデザインや相互行為を比較することで,「パフォーマンス型音楽教育プログラム」における相互行為の特徴について検討する。
方 法
本研究では,筆者らがこれまで首都圏の保育園で行ってきた2つの音楽アウトリーチ実践を比較する(Table 1参照)。実践Aは,従来の音楽アウトリーチが単発型の企画として実施される傾向にあったのに対し,継続的な音楽アウトリーチを提供することを目的に実施した企画であった。また実践Bは,ミュージカルを題材とし,参加者が互いのオファーを受け入れ・発展させるという「Yes, and」の方法論(Holzman,2009)に基づいて共同学習を展開させるという「パフォーマンス型音楽教育プログラム」の提案(新原,2016)をもとに,著者と音楽家らが協議しながら実施した企画であった。
これら2つの実践における子ども・音楽家間の相互行為を微視的に分析し,比較を行った。
結果と考察
実践A・Bではともに,実践を継続していく中で音楽家と研究者が内容について協議を重ねていたため,実践の経過に従って徐々に内容にも変化が生じていた。よって本研究ではまず,実践開始当初の,最も古いビデオデータを元に,どのような相互行為が展開されていたかを比較した(Table 2参照)。
Table 2から,実践AとBには,それぞれの実践の企画の意図や目的の違いから,実践Bでは音楽家と子どもが一緒に合唱や演技を行うことにより多くの時間が割かれる等の相違が生じていたことが読み取れる。
こうした実践間の相違だけでなく,実践Bの前半と後半では,「言葉による指示・教示その他」の内容とそれによって生じた相互行為に変化が生じていたことが明らかになった。こうした微細な変化と相互行為の発達可能性について検討することは,教室での学習場面における発達可能性の創出について考える端緒となることが期待できる。
近年,ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」理論を基盤とし,パフォーマンスを通して自分自身の新しい可能性を創造することを目的とした「パフォーマンス活動」が世界的な広がりを見せている。パフォーマンス活動では従来の音楽教育プログラムのように「今できること」に取り組むことではなく,「社会的にパターン化した行動を超えて発達する」(Friedman& Holzman,2014)ことが目指されている。パフォーマンス活動は現在,様々な形態のプログラムとして世界的な広がりを見せつつある。
しかしパフォーマンス活動を日本の教育・保育現場に取り入れるための具体的なプログラムは,現在まで開発されていない。そこで筆者を含めた研究グループは,教育・保育現場において実施可能な「パフォーマンス型音楽教育プログラム」の開発を試みた。具体的には,グループでの協働による創造的で即興的な活動を通して,子どもの情動的・社会的な発達を促進することを目指すため,ミュージカルを題材とした音楽教育プログラムを継続的に計画・実施した。本報告では,プログラムデザインや相互行為を比較することで,「パフォーマンス型音楽教育プログラム」における相互行為の特徴について検討する。
方 法
本研究では,筆者らがこれまで首都圏の保育園で行ってきた2つの音楽アウトリーチ実践を比較する(Table 1参照)。実践Aは,従来の音楽アウトリーチが単発型の企画として実施される傾向にあったのに対し,継続的な音楽アウトリーチを提供することを目的に実施した企画であった。また実践Bは,ミュージカルを題材とし,参加者が互いのオファーを受け入れ・発展させるという「Yes, and」の方法論(Holzman,2009)に基づいて共同学習を展開させるという「パフォーマンス型音楽教育プログラム」の提案(新原,2016)をもとに,著者と音楽家らが協議しながら実施した企画であった。
これら2つの実践における子ども・音楽家間の相互行為を微視的に分析し,比較を行った。
結果と考察
実践A・Bではともに,実践を継続していく中で音楽家と研究者が内容について協議を重ねていたため,実践の経過に従って徐々に内容にも変化が生じていた。よって本研究ではまず,実践開始当初の,最も古いビデオデータを元に,どのような相互行為が展開されていたかを比較した(Table 2参照)。
Table 2から,実践AとBには,それぞれの実践の企画の意図や目的の違いから,実践Bでは音楽家と子どもが一緒に合唱や演技を行うことにより多くの時間が割かれる等の相違が生じていたことが読み取れる。
こうした実践間の相違だけでなく,実践Bの前半と後半では,「言葉による指示・教示その他」の内容とそれによって生じた相互行為に変化が生じていたことが明らかになった。こうした微細な変化と相互行為の発達可能性について検討することは,教室での学習場面における発達可能性の創出について考える端緒となることが期待できる。