[PG46] 向社会的行動の動機項目の内容的妥当性の検討
制御焦点理論の観点から
キーワード:援助場面, 向社会的行動, 制御焦点理論
問題と目的
吉野・相川(2017)は,感謝感情と負債感情が向社会的行動の促進に至る過程に,向社会的行動の動機が位置づくと仮定し,場面想定法により検討した。向社会的行動の動機には,「促進焦点型動機」と「予防焦点型動機」を仮定した。各動機の測定項目は,人間の自己制御に関して快に接近する「促進焦点」と不快を回避する「予防焦点」の2種類のモードを仮定する制御焦点理論(Higgins,2001;尾崎・唐沢,2011)を参考に作成されたものであった(吉野・相川,2017)。結果は,上記仮定をある程度支持するものであった。しかし,この結果には,「促進焦点型動機」と「予防焦点型動機」を測定する項目の内容的妥当性が未検討であるという問題点が残ると指摘できる。
本研究の目的は,向社会的行動の動機項目(吉野・相川,2017)の内容的妥当性を検討することである。向社会的行動の動機項目は,制御焦点理論に基づく項目であるため,妥当性の検討としては,自己制御モードの特性面との関連を検討する。加えて,自己制御モードが感謝感情と負債感情の特性面と関係がある(Mathews et al.,2010)ため,特性感謝,特性負債感との関連も検討する。
方 法
調査参加者:日本人大学生245名(友人への援助場面116名,他人への援助場面129名)
場面想定法による質問紙調査を実施した。場面は,自転車をドミノ倒しにした友人(他人)に遭遇する場面を提示し,援助(声をかける,自転車を起こす,並べる)を行うか否かと,向社会的行動の動機を8項目7件法(吉野・相川,2017)で尋ねた。加えて特性尺度であるPPFS邦訳版尺度(尾崎・唐沢,2011),行動抑制システム・行動接近システム尺度(BIS/BAS尺度)(安田・佐藤,2002),対人的感謝尺度(藤原他,2014),心理的負債感尺度(相川・吉森,1995)へ回答を求めた。
結 果
向社会的行動の動機8項目に関して,吉野・相川(2017)と同様に探索的因子分析(プロマックス回転・2因子設定)を行った。全体データにおける結果は,第一因子が「自分がすべきだと思った」など4項目からなる「予防焦点型動機」と一致し,第二因子が「自分のメリットとなると思った」など4項目からなる「促進焦点型動機」と一致した。援助の対象者別の結果では,友人・他人ともに,同様の2因子が得られた。ただし,他人において,「明るい気持ちになれる」の項目が,両因子において同程度の負荷量であった。
次に,項目平均を得点とする,向社会的行動の動機2変数,自己制御モードの特性面に関する4変数,特性感謝,特性負債感,項目の合計点を得点とする向社会的行動とのピアソンの積率相関係数を求めた(Table 1)。
促進焦点型動機は,促進焦点の特徴と一致し,PPFS尺度における特性促進,特性感謝,向社会的行動と正の相関,BIS/BASにおける回避ドライブと負の相関がみられた。
一方,予防焦点型動機では,予防焦点の特徴と一致する点は,全体データの場合における,特性負債感との正の相関,他人への援助の場合における,PPFS尺度の特性予防との正の相関であった。
向社会的行動は,友人への援助の場合には,促進焦点型,予防焦点型どちらの動機とも,関連がみられなかった。
考 察
促進焦点型動機の項目は十分な妥当性が確認されたが,予防焦点型動機の項目は更なる検討が必要であろう。ただし,どちらの動機項目も場面に対する状態的な回答であるため,援助にコストが伴わない場面を用いたことや,援助の対象者の影響が特性の傾向と異なる回答をとらせたとも考えられる。
吉野・相川(2017)は,感謝感情と負債感情が向社会的行動の促進に至る過程に,向社会的行動の動機が位置づくと仮定し,場面想定法により検討した。向社会的行動の動機には,「促進焦点型動機」と「予防焦点型動機」を仮定した。各動機の測定項目は,人間の自己制御に関して快に接近する「促進焦点」と不快を回避する「予防焦点」の2種類のモードを仮定する制御焦点理論(Higgins,2001;尾崎・唐沢,2011)を参考に作成されたものであった(吉野・相川,2017)。結果は,上記仮定をある程度支持するものであった。しかし,この結果には,「促進焦点型動機」と「予防焦点型動機」を測定する項目の内容的妥当性が未検討であるという問題点が残ると指摘できる。
本研究の目的は,向社会的行動の動機項目(吉野・相川,2017)の内容的妥当性を検討することである。向社会的行動の動機項目は,制御焦点理論に基づく項目であるため,妥当性の検討としては,自己制御モードの特性面との関連を検討する。加えて,自己制御モードが感謝感情と負債感情の特性面と関係がある(Mathews et al.,2010)ため,特性感謝,特性負債感との関連も検討する。
方 法
調査参加者:日本人大学生245名(友人への援助場面116名,他人への援助場面129名)
場面想定法による質問紙調査を実施した。場面は,自転車をドミノ倒しにした友人(他人)に遭遇する場面を提示し,援助(声をかける,自転車を起こす,並べる)を行うか否かと,向社会的行動の動機を8項目7件法(吉野・相川,2017)で尋ねた。加えて特性尺度であるPPFS邦訳版尺度(尾崎・唐沢,2011),行動抑制システム・行動接近システム尺度(BIS/BAS尺度)(安田・佐藤,2002),対人的感謝尺度(藤原他,2014),心理的負債感尺度(相川・吉森,1995)へ回答を求めた。
結 果
向社会的行動の動機8項目に関して,吉野・相川(2017)と同様に探索的因子分析(プロマックス回転・2因子設定)を行った。全体データにおける結果は,第一因子が「自分がすべきだと思った」など4項目からなる「予防焦点型動機」と一致し,第二因子が「自分のメリットとなると思った」など4項目からなる「促進焦点型動機」と一致した。援助の対象者別の結果では,友人・他人ともに,同様の2因子が得られた。ただし,他人において,「明るい気持ちになれる」の項目が,両因子において同程度の負荷量であった。
次に,項目平均を得点とする,向社会的行動の動機2変数,自己制御モードの特性面に関する4変数,特性感謝,特性負債感,項目の合計点を得点とする向社会的行動とのピアソンの積率相関係数を求めた(Table 1)。
促進焦点型動機は,促進焦点の特徴と一致し,PPFS尺度における特性促進,特性感謝,向社会的行動と正の相関,BIS/BASにおける回避ドライブと負の相関がみられた。
一方,予防焦点型動機では,予防焦点の特徴と一致する点は,全体データの場合における,特性負債感との正の相関,他人への援助の場合における,PPFS尺度の特性予防との正の相関であった。
向社会的行動は,友人への援助の場合には,促進焦点型,予防焦点型どちらの動機とも,関連がみられなかった。
考 察
促進焦点型動機の項目は十分な妥当性が確認されたが,予防焦点型動機の項目は更なる検討が必要であろう。ただし,どちらの動機項目も場面に対する状態的な回答であるため,援助にコストが伴わない場面を用いたことや,援助の対象者の影響が特性の傾向と異なる回答をとらせたとも考えられる。