[PG59] 重度聴覚障害者の発音に対する自己評価と単音節明瞭度の比較検討
キーワード:聴覚障害, 単音節明瞭度, 自己評価
問題の所在と目的
聴覚障害者の発音は,健聴者とは異なった様相を示すことが言われてきた。発音の明瞭さを測る検査として,単音節明瞭度検査がある。しかし,その内容に関しては聴覚特別支援学校教員や言語聴覚士等が把握するのにとどまり,聴覚障害者は自身の発音の問題点を経験的に知ることが多い。加えて,単音節明瞭度の結果を聴覚障害者にフィードバックする機会が少ないように思われる。そもそも,単音節明瞭度の結果と聴覚障害者自身の単音節に対する意識を対照させて検討したものはない。
そこで,本研究では,単音節明瞭度検査を実施した上で,聴覚障害者自身が単音節に対する自己評価を行い,それらを比較検討することを目的とした。
方 法
(1)対象者:日常的に音声コミュニケーションを用いている聴覚障害学生5名(A~E,先天性感音難聴,補聴器装用,21歳~23歳,79dBHL~105dBHL)を対象とした。
(2)手続き:検査語音は,日本語100音節をランダムに配置して作成した100音節表を用いた。実験は防音室にて行われ,対象者には100音節表を読み上げてもらった。その発話音声を口前約15cmに置かれたマイクロホン(OLYMPUS ME-34)を通して,ICレコーダ(SONY ICD-UX565F)に録音した。
(3)自己評価検査:録音後,対象者には100音節の明瞭度に関して,正しく発音できているか自信があるものには○,自信がないものについては×で回答させた。
(4)単音節明瞭度検査:各対象者に対し,健聴学生3名を評価者として,聴取検査を実施した。防音室内で,評価者の約1m前にスピーカ(SONY SRS-88)を配置し,至適レベルで行った。評価者には,聞こえた通りに書くように指示した。
(5)倫理的配慮:実験に先立ち,対象者に研究目的等を書面及び口頭で説明し,同意を得た上で実施した。
結果と考察
Figure 1に各対象者の単音節に対する自信の有無と明瞭度検査での正答・誤答の結果を示した。単音節明瞭度検査では,評価者3名中2名以上正答した単音節を正答として集計した。また,単音節明瞭度及び自己評価について,χ二乗検定を行ったところ,明瞭度で「誤答」が有意に多い対象者は2名で,その2名とも自己評価では有意差は見られなかった。誤答が統計的に多いにも関わらず,自信がない単音節が比較的少なかった要因としては単音節ではなく,単語・文レベルでの発話における相手の了解性の度合いが影響していると推測される。ただし,自身の発音能力を理解していないとも言えるため,フィードバックする機会を提供することが肝要である。
また,全体的にサ行及びギャ行,シャ行,ジャ行が苦手である傾向が示された。板橋(2011)によると,聴覚障害高校生の発音しにくい音節について,対象者の半数以上がサ行を苦手としている一方で,拗音を苦手とする生徒は少なかった。本研究からは,破擦音及び拗音は苦手意識が高く,発音明瞭度も高くないことが示唆された。
今回は,自己評価と他覚評価の対比検討にとどまったが,自身の発音の問題点を再認識した上で,意識しながら聴取されやすい発話する必要がある。
引用文献
板橋安人(2011).聴覚障害生徒の発音のとらえ方をさぐる.ろう教育科学,53(2),81-94.
聴覚障害者の発音は,健聴者とは異なった様相を示すことが言われてきた。発音の明瞭さを測る検査として,単音節明瞭度検査がある。しかし,その内容に関しては聴覚特別支援学校教員や言語聴覚士等が把握するのにとどまり,聴覚障害者は自身の発音の問題点を経験的に知ることが多い。加えて,単音節明瞭度の結果を聴覚障害者にフィードバックする機会が少ないように思われる。そもそも,単音節明瞭度の結果と聴覚障害者自身の単音節に対する意識を対照させて検討したものはない。
そこで,本研究では,単音節明瞭度検査を実施した上で,聴覚障害者自身が単音節に対する自己評価を行い,それらを比較検討することを目的とした。
方 法
(1)対象者:日常的に音声コミュニケーションを用いている聴覚障害学生5名(A~E,先天性感音難聴,補聴器装用,21歳~23歳,79dBHL~105dBHL)を対象とした。
(2)手続き:検査語音は,日本語100音節をランダムに配置して作成した100音節表を用いた。実験は防音室にて行われ,対象者には100音節表を読み上げてもらった。その発話音声を口前約15cmに置かれたマイクロホン(OLYMPUS ME-34)を通して,ICレコーダ(SONY ICD-UX565F)に録音した。
(3)自己評価検査:録音後,対象者には100音節の明瞭度に関して,正しく発音できているか自信があるものには○,自信がないものについては×で回答させた。
(4)単音節明瞭度検査:各対象者に対し,健聴学生3名を評価者として,聴取検査を実施した。防音室内で,評価者の約1m前にスピーカ(SONY SRS-88)を配置し,至適レベルで行った。評価者には,聞こえた通りに書くように指示した。
(5)倫理的配慮:実験に先立ち,対象者に研究目的等を書面及び口頭で説明し,同意を得た上で実施した。
結果と考察
Figure 1に各対象者の単音節に対する自信の有無と明瞭度検査での正答・誤答の結果を示した。単音節明瞭度検査では,評価者3名中2名以上正答した単音節を正答として集計した。また,単音節明瞭度及び自己評価について,χ二乗検定を行ったところ,明瞭度で「誤答」が有意に多い対象者は2名で,その2名とも自己評価では有意差は見られなかった。誤答が統計的に多いにも関わらず,自信がない単音節が比較的少なかった要因としては単音節ではなく,単語・文レベルでの発話における相手の了解性の度合いが影響していると推測される。ただし,自身の発音能力を理解していないとも言えるため,フィードバックする機会を提供することが肝要である。
また,全体的にサ行及びギャ行,シャ行,ジャ行が苦手である傾向が示された。板橋(2011)によると,聴覚障害高校生の発音しにくい音節について,対象者の半数以上がサ行を苦手としている一方で,拗音を苦手とする生徒は少なかった。本研究からは,破擦音及び拗音は苦手意識が高く,発音明瞭度も高くないことが示唆された。
今回は,自己評価と他覚評価の対比検討にとどまったが,自身の発音の問題点を再認識した上で,意識しながら聴取されやすい発話する必要がある。
引用文献
板橋安人(2011).聴覚障害生徒の発音のとらえ方をさぐる.ろう教育科学,53(2),81-94.