日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PB] ポスター発表 PB(01-67)

2019年9月14日(土) 13:00 〜 15:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間 奇数番号13:00~14:00 偶数番号14:00~15:00

[PB45] 高校生・大学生のいじめ場面での傍観行動を規定する要因(1)

従来型いじめ場面の検討

西野泰代1, 原田恵理子2, 若本純子3 (1.広島修道大学, 2.東京情報大学, 3.山梨大学)

キーワード:いじめ、傍観行動、罪悪感

問題と目的
 いじめに関して,最近では,「関係性の問題」という視点に立った研究が散見される(森田, 2010; Salmivalli, Lagerspetz, Bjorkqvist, Osterman, & Kaukiainen,1996)。また,いじめ被害の多さは,学級内での加害者や観衆の人数よりも傍観者の人数と最も高い相関を示すという調査結果(森田, 1990)や,いじめ行動が起きる場面での傍観者に焦点を当てた介入がいじめ行動の抑制に効果的だというメタ分析結果(Polanin, Espelage, & Pigott, 2012)も報告されている。こうしてみると,いじめを抑止するためには,いじめ場面で見て見ぬふりをする傍観者を減らすことが肝要であると推察される。一方,青年期には同質性を重視した友人関係が見られること(Brown,1982)や,いじめ場面でネガティブな情動反応を示した子どもたちは,そうでない子どもたちに比べていじめを仲裁しようとすること(Barhight, Hubbard, & Hyde, 2013)が報告されている。そこで,本研究では,いじめ場面における被害者との親密度,被異質視不安,傍観することの罪悪感に注目して,傍観行動の生起を規定する要因について検討することを目的とする。なお,いじめ場面として従来の対面上のいじめ(traditional bullying)を取り上げ,調査対象を高校生および大学生とする。
方  法
使用尺度 ①いじめ場面での傍観行動:大西・黒川・吉田(2009)を参考に新たに作成した6項目3件法 ②(いじめ場面での)傍観への罪悪感:新たに作成した6項目4件法 ③被異質視不安:高坂(2010)を参考にした11項目5件法     
対象と調査時期 高校1年生(2016年6月実施)と大学生(平均年齢=19.9,2017年1月実施)を対象とした。今回の分析対象は656名(高校生530名,女子52.3%;大学生126名,女子46.8%)。
結  果
基礎統計量 各尺度について信頼性を確認したところ,「被害者が仲の良い子(以後,「仲良し」)(α=.79)」「被害者が特別仲の良いわけではない子(以後,「普通」)(α=.83)」「傍観への罪悪感(α=.86)」「被異質視不安(α=.90)」であり,それぞれに十分な内的整合性が示された。次に,各尺度について学校段階による差を検討したところ,傍観行動について親密度の違いに関わらず,大学生より高校生の得点が有意に低かった(「仲良し」t(652)=2.15, p<.05;「普通」t(652)=4.22, p<.001)。
いじめ場面での傍観行動を予測する要因 被害者との親密度の違いによる2場面での傍観行動を基準変数として,予測変数には学校段階と性別をStep 1,傍観への罪悪感と被異質視不安(各々中心化した得点)をStep 2,傍観への罪悪感と被異質視不安について各々学校段階および性別との交互作用項をそれぞれStep 3,傍観への罪悪感と被異質視不安の交互作用項をStep 4に投入する階層的重回帰分析を行った。結果をTable 1に示す。分析の結果,2場面の傍観行動ともに学校段階,傍観への罪悪感,被異質視不安それぞれの主効果が確認された。交互作用については,被害者との親密度が「仲良し」の場面で「罪悪感×被異質視不安」,被害者との親密度が「普通」の場面で「罪悪感×性別」のみが有意な値を示した。
考  察
 従来の対面上のいじめ場面での傍観行動の生起を規定する要因について検討した結果,高校生と大学生では生起頻度に差がある可能性が示されたことに加え,被害者との親密度の違いに関わらず,友人から異質な存在に見られることに対する不安(被異質視不安)が傍観行動を促進し,他方,いじめ場面での罪悪感が傍観行動を抑制する可能性が示唆された。こうしてみると,いじめ低減への介入として罪悪感の醸成が有効であるように考えられるが,一方で,本研究の結果から,被害者が「仲良し」である場合のみ,被異質視不安が傍観行動を促進する影響を罪悪感が緩衝する可能性が示唆されており,被害者との関係性が傍観行動抑制に対する罪悪感の効力を左右する可能性も否定できない。今後,傍観行動の生起に関わる様々な要因の複合的な影響について更なる検討が望まれる。