[PB67] 小学校三年生を対象とした馬の授業における子どもの反応
Keywords:子どもの反応の評価、馬介在教育、総合的な学習の時間
緒 言
動物介在教育(animal assisted education:AAE)は動物を「いのちある教育のツール」として活用し,教育の質及び学習意欲の向上を目的に行われる。 近年日本でも学校の授業で動物を介在させる教育は広がりつつあるが,その効果の検証が課題となっている。学校で犬を用いた介在教育の研究報告は存在するが(的場・柿沼2009,伊澤他 2012),評価に関しての報告は少ない(柿沼・野中・野瀬2013)。学校における介在教育の評価に求められるのは,教師への負担の少なく,児童にとってメリットのある形で行われるものが望ましい。簡便な評価方法は動物介在教育の効果の検討,また動物を提供するハンドラーにとっても,プロブラム内容の向上に役立つものである。
本研究では3年間にわたり,年に4回実施された「馬の授業」における児童の反応を多角的に分析し,評価方法について検討した。
方 法
対象:平成28年度から30年度に三鷹市のA小学校で総合の時間で実施された「馬の授業」における児童の記録。小学校3年生322名分。
使用動物:(公財)ハーモニィセンターの4頭の馬
授業内容:午前に軽乗(1人2分),軽乗のための練習等,午後にハンドラーによる馬に関する講義(45分)(Table 1)。
評価方法:乗馬前の不安(体育帽の色を自分で決める–赤は不安,白は楽しみ),乗馬後の気分評価(5段階気分評価尺度および自分の気分,乗馬技術,馬の気持ちに関する質問紙),作文,絵画,運動能力(東京都児童・生徒体力・運動能力調査結果を実施前と実施一年後の調査結果を市内の平均と比較)。
結 果
乗馬前:毎回1-2割が不安を示していた。作文の記述から,1回目の不安は初めてのためであったが,その後は毎回乗馬内容の難易度が上がることへの不安であった。
乗馬後:気分評価では,初回は普通,あるいはあまり満足していないという回答もあったが,2回目以降はほぼ全員が満足と回答している。作文分析からは,前回よりもうまく乗れたことへの達成感が書かれていた。質問紙の回答も同様であった。また,満足度がやや低い児童は,馬は大変ではないか,といった気遣いを述べていた。
馬との関係:絵画では,最初は馬のみの絵が9割を超えていたが,2度目以降は,9割以上が自身と馬を描いていた。質問の回答では馬への気持ちの言及が見られた。作文でも同様に,回数を重ねると馬への配慮や馬の素晴らしさなどの言及が見られ,関係の質が変わっていた(Table 2)。
一年後の運動能力:市内の小学生の平均との差は見られなかった。作文では,筋肉痛については記述されていたが,自身の運動能力に関する言及は見られなかった。
考 察
馬を用いた動物介在教育において,乗馬に対する不安や自己効力感,他者への配慮,あるいは自身の身体能力への気づきなどは,作文や絵画を用いなくても,ある程度評価ができることが示唆された。一方で,より適切な評価手段の開発のためには,児童への面接などの手法も取り入れることが望ましい。
付記 本研究は三鷹市教育委員会の許可を受けて実施している
動物介在教育(animal assisted education:AAE)は動物を「いのちある教育のツール」として活用し,教育の質及び学習意欲の向上を目的に行われる。 近年日本でも学校の授業で動物を介在させる教育は広がりつつあるが,その効果の検証が課題となっている。学校で犬を用いた介在教育の研究報告は存在するが(的場・柿沼2009,伊澤他 2012),評価に関しての報告は少ない(柿沼・野中・野瀬2013)。学校における介在教育の評価に求められるのは,教師への負担の少なく,児童にとってメリットのある形で行われるものが望ましい。簡便な評価方法は動物介在教育の効果の検討,また動物を提供するハンドラーにとっても,プロブラム内容の向上に役立つものである。
本研究では3年間にわたり,年に4回実施された「馬の授業」における児童の反応を多角的に分析し,評価方法について検討した。
方 法
対象:平成28年度から30年度に三鷹市のA小学校で総合の時間で実施された「馬の授業」における児童の記録。小学校3年生322名分。
使用動物:(公財)ハーモニィセンターの4頭の馬
授業内容:午前に軽乗(1人2分),軽乗のための練習等,午後にハンドラーによる馬に関する講義(45分)(Table 1)。
評価方法:乗馬前の不安(体育帽の色を自分で決める–赤は不安,白は楽しみ),乗馬後の気分評価(5段階気分評価尺度および自分の気分,乗馬技術,馬の気持ちに関する質問紙),作文,絵画,運動能力(東京都児童・生徒体力・運動能力調査結果を実施前と実施一年後の調査結果を市内の平均と比較)。
結 果
乗馬前:毎回1-2割が不安を示していた。作文の記述から,1回目の不安は初めてのためであったが,その後は毎回乗馬内容の難易度が上がることへの不安であった。
乗馬後:気分評価では,初回は普通,あるいはあまり満足していないという回答もあったが,2回目以降はほぼ全員が満足と回答している。作文分析からは,前回よりもうまく乗れたことへの達成感が書かれていた。質問紙の回答も同様であった。また,満足度がやや低い児童は,馬は大変ではないか,といった気遣いを述べていた。
馬との関係:絵画では,最初は馬のみの絵が9割を超えていたが,2度目以降は,9割以上が自身と馬を描いていた。質問の回答では馬への気持ちの言及が見られた。作文でも同様に,回数を重ねると馬への配慮や馬の素晴らしさなどの言及が見られ,関係の質が変わっていた(Table 2)。
一年後の運動能力:市内の小学生の平均との差は見られなかった。作文では,筋肉痛については記述されていたが,自身の運動能力に関する言及は見られなかった。
考 察
馬を用いた動物介在教育において,乗馬に対する不安や自己効力感,他者への配慮,あるいは自身の身体能力への気づきなどは,作文や絵画を用いなくても,ある程度評価ができることが示唆された。一方で,より適切な評価手段の開発のためには,児童への面接などの手法も取り入れることが望ましい。
付記 本研究は三鷹市教育委員会の許可を受けて実施している