日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PF] ポスター発表 PF(01-67)

2019年9月15日(日) 16:00 〜 18:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号16:00~17:00
偶数番号17:00~18:00

[PF47] ナラティヴ・アプローチに基づく秘密いじめ対策隊の実践

日本初の試みからみえる可能性と課題

綾城初穂 (駒沢女子大学)

キーワード:いじめ、ナラティヴ、秘密いじめ対策隊

問題と目的
 学校現場において,いじめ対策は急務と言える。文部科学省(2018)の調査では,小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は増加の一途をたどっており,2017年度には40万件を超えた。認知件数の増加は,必ずしも状況の悪化を意味するわけではなく,いじめ対策への積極的な姿勢の表れとも考えられるが,現状が改善しているとはいいがたく,効果的な対策が求められていると言える。
 ニュージーランドおよびアメリカでナラティヴ・セラピーの理論をもとに開発された『秘密いじめ対策隊Undercover anti-bullying teams』(Winslade & Williams, 2012)は,支援を受けたいじめ被害者の9割が成功と見なしており(Winslade et al., 2015),効果的対策の一つとして期待できる。さらに本アプローチは,加害児童生徒を含めたいじめ対策チームを学級内で結成し,いじめの解消を目指すアプローチであり,子どもたちの主体的・協働的な参与と対人関係の学習が目指されていることから,アクティブラーニングをはじめとする現在の日本の教育施策とも方向を同じにすると言える。しかし日本ではまだこの支援法を適用した事例は報告されておらず,社会文化的な背景の違いを踏まえると,効果は未知数である。そこで本発表では,秘密いじめ対策隊を日本の小学校に初めて応用した実践を報告し,その可能性と課題について考察することを目的とする。
 なお,本実践の研究および発表に関しては,関係する児童生徒,その保護者,実践者,実践者が所属する学校の管理職より許諾を得ている。
実  践
 本実践は,A県小学校教諭Bが,特別支援学級在籍の女児Cから,交流学級でのいじめの相談を受けたことで開始された。Cの許可を受けたBが著者に支援を依頼し,Bが実践者,著者が支援者として実践を行うことになった。
 本実践は,Winslade & Williams (2012) に基づき,次のような手順で実施された。なお,活動は教職員・被害児童・対策隊のメンバー以外には秘密にして行われた。これは活動の活性化(動機づけ,など)と円滑化(活動が妨害されない,加害児童が参加しやすい,など)のために取られた措置であり,本実践の中核とされている。
 (1)学級内で加害児童を含めた秘密いじめ対策隊を結成:BがCと協議する形で,交流学級内で影響力のある児童男女4名と,いじめの主犯と目される児童2名の6名をメンバーとして選定した。
 (2) 初回ミーティング:Bが対策隊6名を招集し,いじめの事実と,対策隊参加の意思を確認した。その後,メンバー6名はいじめ解消のプラン(からかうのを注意する,など)を5つ立案した。
 (3) 実践とミーティング:対策隊は学級内でプランを実施するとともに,進展等についてミーティングを重ねた。結果,メンバーの増員,新たないじめの発見,新たなプランの策定などが生じた。
 (4) 現状及び被害児童への確認:約2週間でCに対するいじめの大半が消失した。Cは交流学級で過ごす時間が増え,「学校が楽しい」と発言した。
 (5) 実践の終了:実践開始から約1か月半後,Cが活動の終了を判断。B及び担任も,友人関係,交流学級在籍時間,学習意欲の大幅な改善を確認。
 (6) クラス内対人関係への対応:対策隊は,いじめを許容する学級の雰囲気にも介入する必要があると考え,活動の延長を希望し,Cも賛同した。対策隊はメンバーを増員し,学級内で話し合うサークル会話(Winslade & Williams, 2012)を実施。得られた意見は教室に花の形で掲示された。
 (7) 表彰式:開始から3か月後,校長が対策隊を表彰。表彰状と文具が手渡された。「メンバーに選んでくれたCに感謝したい」「これまでいじめの止め方が分からなかったが,その解決法を学べた」「今後も応用できる」といった感想が聞かれた。
 (8) 著者による支援:計画立案に加え,教職員への説明,アプローチ開発者との橋渡しや資料翻訳,被害児童の保護者支援などを行った。
考  察
 本活動は,子どもたちの主体的・協働的な活動を通していじめの解決を導くとともに,その解決法についての学びも生み出していた。さらに,子どもたちが広い文脈(学級内の対人関係)へと問いを広げ,それを解決しようとした点でも深い学びにつながっていた。この意味で学校現場における画期的ないじめ対策となり得ると言える。一方で,幾つかの課題も指摘された。中でも,教科担任制をとり教室移動が多くあるニュージーランドと異なり,一日の大半を同じ教室で過ごす日本では秘密を維持する独自の難しさが明らかになった。