[PG20] 社会的事象の本質を捉える思考を促す介入について
学習者自らが性質を抽象化するためにはどのような発問が有効か
キーワード:社会科、抽象化、概念的理解
問題と目的
社会科が暗記科目と認識される理由として,単元で学んだ内容がその単元に閉じており,他の領域に関連づけられていないということが考えられる。概念の般化可能性を検討した研究(e.g., 藤田,2005)では,概念あるいは概念的知識を研究者側が教示・提示した後に課題が実施されることが多い。これらの研究の場合,学習者にとって抽象度の高い概念は与えられるものであるため,学習者自身が主体的に知識の抽象化・概念化を行うプロセスについては十分に検討されていないと考えられる。
以上を基に,本研究では学習者自らが社会科学的事象の性質を捉え,その性質を抽象化するプロセスに着目し,そのことを促す方法を,個別面接によって明らかにすることを目的とする。
方 法
参加者と実施時期 新潟県内の公立中学校1年生53名(実験群28名,対照群24名)であった。実施時期は,2019年1月下旬から2月上旬にかけてであった。
調査内容と調査手続き 個別面接を放課後に一人あたり20分程度で行った。課題は人口に関わる問題を抱える地方自治体を扱い,その問題に対する取組の目的を尋ねた。まず過疎の自治体二つについて尋ね(Ⅱ’),さらに過密の自治体について尋ねた(Ⅲ)うえで,三つの自治体を合わせての目的を尋ねた(Ⅳ’)。なお,実験群では取組の共通点・相違点(Ⅱ) (Ⅳ)を尋ねてから目的(Ⅱ’) (Ⅳ’)を尋ねた。対照群では目的のみを尋ねた。最後に評価課題として「過疎」・「過密」と同様に人口に関わる「少子化」について対策の目的を尋ねた。
結果と考察
実施した課題に対する生徒の解答を本質的理解に至る水準として3水準に分類した。(2:社会の維持・発展に関連づけている,1:各社会問題固有の問題の解決について述べている,0:各自治体で行われている具体的な取組について述べている。)
発問に対する群間差の検討 各発問(Ⅱ’・Ⅲ・Ⅳ’・Ⅴ)において水準の人数分布に群間の差が生じたかをχ2検定を用いて検討した。その結果,どの発問においても有意差は見られなかった(n.s.)。
各群内の変化 共通する規準を使用したⅡ’,Ⅳ’,Ⅴに対し,各群内のそれぞれの間で変化が生じていたかを検討した(Bhapkar検定)。その結果,実験群では(Ⅱ’,Ⅳ’(p=.026)) (Ⅳ’,Ⅴ(p<.001)) 間での変化が有意であった(Figure 1参照)。一方で対照群では各発問間で有意な変化は認められなかった。特徴的な水準間の移動を検討するために下位検定を行った結果,実験群では(Ⅳ’,Ⅴ)間で水準1から2への移動が有意であった(p<.001)。参考までに分析を行った結果,対照群でも(Ⅳ’,Ⅴ)間で水準1から2への移動は有意であった(p=.001)。
共通点・相違点を問うことによる影響の検討 共通点・相違点を問うことの影響を分析するため,両者を問うⅡとⅣにおいて高水準であった群と低水準であった群に分け,ⅡについてはⅡ’ⅢⅣⅣ’Ⅴ,ⅣについてはⅣ’Ⅴの各人数分布についてχ2検定により群間差を検討した。分析を行う際,Ⅳでは水準0と1を合計したものを低群とした。その結果,ⅡについてはⅢとⅤにおいて有意傾向となった(p<.10)。一方,ⅣではⅣ’(p=.005)とⅤ(p=.024)において群間で有意差が生じていた。
以上の結果から,中学1年生段階ではあえて共通点・相違点を問わなくても「複数事例」という条件設定の下では共通点・相違点を前提として考察する生徒がいる可能性が示唆された。次に共通点・相違点を捉えることは抽象度の高い関係性を捉えるうえで有効であるという示唆が得られた。特に難度の高いⅣの結果から「複数の情報の処理」,「表面的に異なる事象に対する共通点の認識」がより高次の本質の理解に必要な要素である可能性がある。両群とも(Ⅳ',Ⅴ)間で水準1から2への移動が有意になった点について,先述の二つから対照群においてもⅣ’で生徒は共通点・相違点を踏まえた思考をしている可能性があると予想される。
社会科が暗記科目と認識される理由として,単元で学んだ内容がその単元に閉じており,他の領域に関連づけられていないということが考えられる。概念の般化可能性を検討した研究(e.g., 藤田,2005)では,概念あるいは概念的知識を研究者側が教示・提示した後に課題が実施されることが多い。これらの研究の場合,学習者にとって抽象度の高い概念は与えられるものであるため,学習者自身が主体的に知識の抽象化・概念化を行うプロセスについては十分に検討されていないと考えられる。
以上を基に,本研究では学習者自らが社会科学的事象の性質を捉え,その性質を抽象化するプロセスに着目し,そのことを促す方法を,個別面接によって明らかにすることを目的とする。
方 法
参加者と実施時期 新潟県内の公立中学校1年生53名(実験群28名,対照群24名)であった。実施時期は,2019年1月下旬から2月上旬にかけてであった。
調査内容と調査手続き 個別面接を放課後に一人あたり20分程度で行った。課題は人口に関わる問題を抱える地方自治体を扱い,その問題に対する取組の目的を尋ねた。まず過疎の自治体二つについて尋ね(Ⅱ’),さらに過密の自治体について尋ねた(Ⅲ)うえで,三つの自治体を合わせての目的を尋ねた(Ⅳ’)。なお,実験群では取組の共通点・相違点(Ⅱ) (Ⅳ)を尋ねてから目的(Ⅱ’) (Ⅳ’)を尋ねた。対照群では目的のみを尋ねた。最後に評価課題として「過疎」・「過密」と同様に人口に関わる「少子化」について対策の目的を尋ねた。
結果と考察
実施した課題に対する生徒の解答を本質的理解に至る水準として3水準に分類した。(2:社会の維持・発展に関連づけている,1:各社会問題固有の問題の解決について述べている,0:各自治体で行われている具体的な取組について述べている。)
発問に対する群間差の検討 各発問(Ⅱ’・Ⅲ・Ⅳ’・Ⅴ)において水準の人数分布に群間の差が生じたかをχ2検定を用いて検討した。その結果,どの発問においても有意差は見られなかった(n.s.)。
各群内の変化 共通する規準を使用したⅡ’,Ⅳ’,Ⅴに対し,各群内のそれぞれの間で変化が生じていたかを検討した(Bhapkar検定)。その結果,実験群では(Ⅱ’,Ⅳ’(p=.026)) (Ⅳ’,Ⅴ(p<.001)) 間での変化が有意であった(Figure 1参照)。一方で対照群では各発問間で有意な変化は認められなかった。特徴的な水準間の移動を検討するために下位検定を行った結果,実験群では(Ⅳ’,Ⅴ)間で水準1から2への移動が有意であった(p<.001)。参考までに分析を行った結果,対照群でも(Ⅳ’,Ⅴ)間で水準1から2への移動は有意であった(p=.001)。
共通点・相違点を問うことによる影響の検討 共通点・相違点を問うことの影響を分析するため,両者を問うⅡとⅣにおいて高水準であった群と低水準であった群に分け,ⅡについてはⅡ’ⅢⅣⅣ’Ⅴ,ⅣについてはⅣ’Ⅴの各人数分布についてχ2検定により群間差を検討した。分析を行う際,Ⅳでは水準0と1を合計したものを低群とした。その結果,ⅡについてはⅢとⅤにおいて有意傾向となった(p<.10)。一方,ⅣではⅣ’(p=.005)とⅤ(p=.024)において群間で有意差が生じていた。
以上の結果から,中学1年生段階ではあえて共通点・相違点を問わなくても「複数事例」という条件設定の下では共通点・相違点を前提として考察する生徒がいる可能性が示唆された。次に共通点・相違点を捉えることは抽象度の高い関係性を捉えるうえで有効であるという示唆が得られた。特に難度の高いⅣの結果から「複数の情報の処理」,「表面的に異なる事象に対する共通点の認識」がより高次の本質の理解に必要な要素である可能性がある。両群とも(Ⅳ',Ⅴ)間で水準1から2への移動が有意になった点について,先述の二つから対照群においてもⅣ’で生徒は共通点・相違点を踏まえた思考をしている可能性があると予想される。