[PG31] 成人期における英語学習の継続理由に関する質的研究
キーワード:意味づけ、M-GTA、英語教育
問題と目的
日本では,一部の人を除けば日常生活で英語を用いることはなく,英語学習はEFL(English as a Foreign Language)と位置付けられる(望月,2010)。日本の学校教育ではほとんどの人が外国語として英語を学習するが(寺沢,2014),中学生では「勉強しないといけない」(ベネッセ教育総合研究所,2014),高校生では大学入試(大竹,2017)が主要な学習動機となっている。また,学校教育以外での英語学習意欲は決して高いとは言えない。平成28年度社会生活基本調査によれば,学校外で英語を学習している人は11.9%にとどまる。年齢別に見ると,10歳~14歳が33.8%,15歳~19歳が33.5%であるのに対して,20歳~24歳が25.6%,25歳~29歳が15.7%であり,高校や大学を終えると英語学習者は減っていく。さらに,日本版総合的社会調査(JGSS)2003年版では,学校以外での英語学習経験を尋ねる項目に対して,68.6%の人が「学習するつもりはない」と回答している。一方,成人英語学習者は,学校卒業後,もう授業や試験がない状況にもかかわらず英語を学び続けている。本研究では,学校教育を終えた後も英語を学び続けている成人に焦点を当て,彼らがなぜ英語を学び続けているのか,成人期の英語学習につながる学校段階の英語学習とはどのようなものかを明らかにする。
方 法
学校外で英語を学習した経験のある成人20名に対して,英語力,英語学習の動機が上がった時期とそれらに影響を与えた要因,動機の維持方法,学習方略等8項目を中心に半構造化インタビューを行った。研究協力者のうち,インタビュー時点で英語を学習していた人は16名である。英語学習をやめる理由についても知るため,英語を学習していたがやめてしまった人(4名)も対象とした。職業(主婦,警備員,教師など16種類)や英語力(英検4級~1級レベル),学習期間(約15年~約70年)に偏りは見られなかった。
結 果
語りの内容を書き起こし,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した。最終的に,44個の概念,9個のサブカテゴリ,3個のカテゴリが生成された。成人英語学習者は,置かれている状況と英語学習への意味づけによって,【受動的英語学習者】【課題解決型英語学習者】【課題生成型英語学習者】の3つの段階に区分できた。また,意味づけの度合いによりスロープを移動することから,結果図を「『英語学習に対する意味づけ』のスロープモデル」と命名した。【受動的英語学習者】は,学校や仕事で英語学習が必要な環境にいるにもかかわらず,受動的な学習にとどまっている学習者である。【課題解決型英語学習者】は,学校や仕事で英語を学ばなければならない環境にあるが,与えられた課題に対して,自分なりの《学習の工夫》といった自己調整学習を行っている学習者である。【課題生成型英語学習者】は,学校や仕事で英語を使う必要がない環境におり,学習する必要性がないにもかかわらず,自ら進んで目標や課題を生成して取り組んでいる学習者である。【課題生成型英語学習者】は,英語学習に対して,「楽しい」「未知なるものへの興味」「自分を成長させる」「外国人を助けるため」等の自分なりの良い意味づけを行っていた。また,学びを個人の属性にせず,他者を意識した学習を行っていた。成人期の英語学習につながる学校段階の英語教育とは,生徒に英語教育に対して良い意味づけをすることである。
まとめと今後の課題
継続的に英語を学習している成人は,自己調整学習を行っているだけでなく,学習者が自ら課題を生成し学習に向かっていることが明らかになった。成人期に必ずしも全員が英語学習をする必要はないが,学校段階で英語学習に対して良い意味づけをしていることが成人でも学び続けることにつながる。今後は,成人が持つ英語学習に対する意味づけが高校生に対して有効であるかを明らかにしていくことが必要である。
引用文献
ベネッセ教育総合研究所(2014)「第1回中学校英語に関する基本調査(生徒調査)・速報値」
望月昭彦(2010)『新学習指導要領にもとづく英語科教育法(改訂版)』大修館書店
大竹保幹(2017)「自己の未来像を見据えて継続し英語を学ぶ態度を育てる授業づくり」 『神奈川県立総合教育センター長期研究員研究報告』 15, 19—24.
寺沢拓敬(2014)『「なんで英語やるの?」の戦後史』研究社
日本では,一部の人を除けば日常生活で英語を用いることはなく,英語学習はEFL(English as a Foreign Language)と位置付けられる(望月,2010)。日本の学校教育ではほとんどの人が外国語として英語を学習するが(寺沢,2014),中学生では「勉強しないといけない」(ベネッセ教育総合研究所,2014),高校生では大学入試(大竹,2017)が主要な学習動機となっている。また,学校教育以外での英語学習意欲は決して高いとは言えない。平成28年度社会生活基本調査によれば,学校外で英語を学習している人は11.9%にとどまる。年齢別に見ると,10歳~14歳が33.8%,15歳~19歳が33.5%であるのに対して,20歳~24歳が25.6%,25歳~29歳が15.7%であり,高校や大学を終えると英語学習者は減っていく。さらに,日本版総合的社会調査(JGSS)2003年版では,学校以外での英語学習経験を尋ねる項目に対して,68.6%の人が「学習するつもりはない」と回答している。一方,成人英語学習者は,学校卒業後,もう授業や試験がない状況にもかかわらず英語を学び続けている。本研究では,学校教育を終えた後も英語を学び続けている成人に焦点を当て,彼らがなぜ英語を学び続けているのか,成人期の英語学習につながる学校段階の英語学習とはどのようなものかを明らかにする。
方 法
学校外で英語を学習した経験のある成人20名に対して,英語力,英語学習の動機が上がった時期とそれらに影響を与えた要因,動機の維持方法,学習方略等8項目を中心に半構造化インタビューを行った。研究協力者のうち,インタビュー時点で英語を学習していた人は16名である。英語学習をやめる理由についても知るため,英語を学習していたがやめてしまった人(4名)も対象とした。職業(主婦,警備員,教師など16種類)や英語力(英検4級~1級レベル),学習期間(約15年~約70年)に偏りは見られなかった。
結 果
語りの内容を書き起こし,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析した。最終的に,44個の概念,9個のサブカテゴリ,3個のカテゴリが生成された。成人英語学習者は,置かれている状況と英語学習への意味づけによって,【受動的英語学習者】【課題解決型英語学習者】【課題生成型英語学習者】の3つの段階に区分できた。また,意味づけの度合いによりスロープを移動することから,結果図を「『英語学習に対する意味づけ』のスロープモデル」と命名した。【受動的英語学習者】は,学校や仕事で英語学習が必要な環境にいるにもかかわらず,受動的な学習にとどまっている学習者である。【課題解決型英語学習者】は,学校や仕事で英語を学ばなければならない環境にあるが,与えられた課題に対して,自分なりの《学習の工夫》といった自己調整学習を行っている学習者である。【課題生成型英語学習者】は,学校や仕事で英語を使う必要がない環境におり,学習する必要性がないにもかかわらず,自ら進んで目標や課題を生成して取り組んでいる学習者である。【課題生成型英語学習者】は,英語学習に対して,「楽しい」「未知なるものへの興味」「自分を成長させる」「外国人を助けるため」等の自分なりの良い意味づけを行っていた。また,学びを個人の属性にせず,他者を意識した学習を行っていた。成人期の英語学習につながる学校段階の英語教育とは,生徒に英語教育に対して良い意味づけをすることである。
まとめと今後の課題
継続的に英語を学習している成人は,自己調整学習を行っているだけでなく,学習者が自ら課題を生成し学習に向かっていることが明らかになった。成人期に必ずしも全員が英語学習をする必要はないが,学校段階で英語学習に対して良い意味づけをしていることが成人でも学び続けることにつながる。今後は,成人が持つ英語学習に対する意味づけが高校生に対して有効であるかを明らかにしていくことが必要である。
引用文献
ベネッセ教育総合研究所(2014)「第1回中学校英語に関する基本調査(生徒調査)・速報値」
望月昭彦(2010)『新学習指導要領にもとづく英語科教育法(改訂版)』大修館書店
大竹保幹(2017)「自己の未来像を見据えて継続し英語を学ぶ態度を育てる授業づくり」 『神奈川県立総合教育センター長期研究員研究報告』 15, 19—24.
寺沢拓敬(2014)『「なんで英語やるの?」の戦後史』研究社