日本教育心理学会第61回総会

講演情報

ポスター発表

[PG] ポスター発表 PG(01-59)

2019年9月16日(月) 10:00 〜 12:00 3号館 1階 (カフェテリア)

在席責任時間
奇数番号10:00~11:00
偶数番号11:00~12:00

[PG42] 障がい・疾患を有する家族をもつ子どもの精神的健康に関する一考察

主観的なケア役割の程度と家族関係に着目して

藤田由起1, 遠矢浩一2 (1.九州大学大学院, 2.九州大学)

キーワード:ケア役割、家族関係、精神的健康

目  的
 障がい・疾患を有する家族をもつ子どもの,該当家族へのケア役割の差や家族関係の違いと,彼らの精神的健康の関連について明らかにし,そのような子どもの支援方法について考える手がかりとすることを本研究の目的とする。
方  法
 障がい・疾患を有する家族と暮らした経験のある成人79名,上記のような経験のない成人100名を対象とし,Web上で質問紙調査を行った。質問紙は,フェイスシート,筆者が作成した母親の養育態度尺度(19項目)及びきょうだい関係尺度(23項目),DSRS-C(村田他,1996)(18項目)で構成された。各尺度については,対象者が小学校卒業までの時期を思い浮かべて回答するよう求めた。
結  果
1.ケア役割の程度が精神的健康に及ぼす影響
 障がい・疾患を有する家族へのケア役割を担っていた程度を問う項目の回答によって,ケア役割高群(以下「高群」),ケア役割低群(以下「低群」),家族の障がい・疾患なし群に分け,3群を独立変数,DSRS-Cの2下位尺度得点を従属変数とする一要因分散分析を行った。その結果,高群が家族の障がい・疾患なし群よりも有意に「抑うつ気分」得点が高かった(F(2,176) = 3.16, p < .05)。
2. 障がい・疾患を有する家族をもつ子どもの家族関係と精神的健康
 高群,低群における,養育態度及びきょうだい関係とDSRS-Cの相関関係を求めた(Table 1,2)。高群では,きょうだい関係とDSRS-C間で複数の有意な相関,母親の養育態度の「従順性」とDSRS-Cの「抑うつ気分」間で有意な正の相関がみられた。低群では,母親の養育態度の「配慮性」とDSRS-C間に有意な負の相関がみられた。
考  察
 家族のケアを担う子どもは,ケアの受け手を優先し,自分の健康や教育等を確保できなくなることもある上,周囲から自身に対する支援や助言を得づらいことが示唆されている(澁谷,2017)。本研究の結果から,ケア役割を多く担う人々は,様々な負担を受けるにも関わらず,それに伴う悩みや不安を他者に相談し,適切な支援を得ることが難しく,心理的影響を受けやすいと示唆された。また,そのような環境に置かれやすいケア役割を多く担う人々にとって,境遇が近いきょうだいとの関係が支えになりやすかったこと,子どもがケアの担い手となることで,親子関係が逆転しうる状況の中で,親としての考えを示さないことは,親からの関与感を抱きにくくさせ,抑うつ感に繋がることが示唆された。さらに,障がい・疾患を有する家族がいても,子どもにケアを担わせず,子どもらしく過ごすことを保障すること,母親が子どもにも目を向け,受容的に関わることが,子どもの高い精神的健康度と関連すると示唆された。
文  献
村田豊久・清水亜紀・森陽二郎・大島祥子 (1996). 学校における子どものうつ病‐Birlesonの小児期うつ病スケールからの検討-. 最新精神医学,1(2), 131-137
澁谷智子 (2017). ヤングケアラーを支える法律‐イギリスにおける展開と日本での応用可能性. 成蹊大学文学部紀要,52, 1-21
付  記
本研究は,科研15K040749の補助を受けた。