日本地質学会第128年学術大会

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口頭発表

T3.[トピック]スロー地震に関する地質学的・実験的・地震学的研究の連携と進展

[1ch113-20] T3.[トピック]スロー地震に関する地質学的・実験的・地震学的研究の連携と進展

2021年9月4日(土) 13:00 〜 15:30 第1 (第1)

座長:氏家 恒太郎、平内 健一、ウォリス サイモン

13:30 〜 13:45

[T3-O-10] スロー地震の地質学的痕跡

*氏家 恒太郎1、西山 直毅1、フランク マディソン1、山下 穂1、森 康2、最首 花恵3、重松 紀生3、永冶 方敬4 (1. 筑波大学、2. 北九州市立自然史・歴史博物館、3. 産業技術総合研究所、4. 東京大学)

キーワード:クラックシール脈、交代作用、デュープレックス構造

高速断層運動に伴う摩擦溶融物が固化することで形成されたシュードタキライトは地震性滑りの最も明確な地質学的証拠であるが、低速変形であるスロー地震の明確な地質学的証拠確立は未だ成されていない。これまでのスロー地震を対象とした地球物理学的観測、モデル研究に基づくと、流体と不均質性がスロー地震の地質学的痕跡を探る上で鍵となりそうである。そこで我々は、若くて暖かいプレートの沈み込み時に地震発生帯より下限側のスロー地震発生域で形成され、流体が関与した変形・反応と岩石分布が不均質な沈み込み帯メランジュや変成岩を対象に研究を行っている。ここでは、これまでの研究により導き出されたスロー地震の地質学的痕跡候補について紹介する。

1. 石英充填クラックシール脈と低周波地震からなる微動
九州東部四万十付加体槙峰メランジュには石英充填クラックシール脈の濃集部が厚さ数十メートル以上、長さ100 m以上に渡って認められる。クラックシール脈は、脆性-延性遷移領域における沈み込み時に静岩圧に近い間隙水圧下で低角逆断層滑りが繰り返し起こったことを示しており、脆性破壊時の剪断強度は10-1 MPaオーダーと非常に低い。石英析出反応速度式を用いて求めた低角逆断層滑りの発生間隔は1, 2年未満と短く、スロー地震の発生間隔と比較可能である。これらのことからメランジュ中のクラックシール脈の濃集部は、低周波地震からなる微動の地質学的痕跡である可能性があげられる(Ujiie et al., 2018)。ヘリウム同位体及び希ガス分析に基づくと、このクラックシール脈をもたらした流体は主として蛇紋岩化したマントルを起源としており、微動は深部からの流体移動によりもたらされたことが示唆される(Nishiyama et al., 2020)。更に最近、このクラックシール脈中のinclusion bandsの厚さが周期的に変化していることが見出され、微動の発生間隔の変化と対応している可能性が指摘されている(Nishiyama et al., 2021)。

2. 交代作用に伴う微動とスロースリップの発生
長崎西彼杵変成岩中に分布する西樫山メランジュは、蛇紋岩化したマントルウェッジとスラブの境界付近で発達したと考えられている(Mori et al., 2014)。このメランジュでは、泥質片岩と緑泥石-アクチノ閃石片岩間の交代作用によりシリカを含む流体が排出され、脆性破壊による石英脈形成と延性剪断変形の局所化による歪速度の2桁増加をもたらしている。このような変形の特徴は、例えば南海トラフにおけるマントルウェッジ付近での微動やスロースリップを説明する新たな地質学的描像となり得るか現在検討しているところである。

3. 深部デュープレックス構造形成と地震波低速度層の発達
石垣島東北部に分布するトムル変成岩は、塩基性片岩と泥質片岩が厚さ数km以上に渡り何度も繰り返し露出することで特徴づけられる。変成鉱物組み合わせと炭質物のラマン地質温度計に基づくと、トムル変成岩は温度約440–480℃、緑簾石–青色片岩相の条件下で発達しており、塩基性片岩には緑簾石、曹長石脈が、泥質片岩には石英脈が満遍なく密に発達する。トムル変成岩の変成温度圧力条件は、北米カスケード沈み込み帯の深部スロー地震発生域に相当しており、塩基性片岩と泥質片岩の繰り返しは地球物理学的観測から推定されている深部デュープレックス構造と比較することが可能である。この場合、密に発達する石英脈などの鉱物脈は、プレート境界に沿った地震波低速度層の発達、流体移動、低周波地震の分布を説明することができるかもしれない。我々は現在、トムル変成岩を北米カスケード沈み込み帯におけるスロー地震の発生過程・発生環境を明らかにする上での有力な陸域アナログ対象として研究を進めているところである。

References
Mori et al., EPS, 2014, doi:10.1186/1880-5981-66-47
Nishiyama et al., EPSL, 2020, https://doi.org/10.1016/j.epsl.2020.116199
Nishiyama et al., EPS, 2021, https://doi.org/10.1186/s40623-021-01448-7
Ujiie et al., GRL, 2018, https://doi.org/10.1029/2018GL078374