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[T3-O-15] 蛇紋岩の滑石化交代作用に関連したスロースリップ
キーワード:スロー地震、交代作用、メランジュ、長崎変成岩類
短期的スロースリップイベントは、深さ30〜60 km、温度400〜500℃付近の沈み込みプレート境界で発生する(例えば、Yoshioka and Murakami, 2007; Obara and Kato, 2016)。沈み込みプレート境界ではスラブ由来の岩石とウェッジマントル由来の岩石が混合されてメランジュを形成していると考えられる(Bebout and Penniston-Dorland, 2016)。このことから、短期的スロースリップイベントの痕跡は青色片岩相からエクロジャイト相で形成されたメランジュ中の剪断帯として記録されていると予想される。
九州西部に露出した長崎変成岩類は、深さ約40 km、温度440〜530℃で変成された片岩類を主体としメランジュを伴う(Nishiyama et al., 2017; Mori et al., 2019)。このメランジュ中には、緑泥石アクチノ閃石片岩の剪断集中帯が発達する。緑泥石アクチノ閃石片岩は、野外観察の所見や全岩化学組成の特徴から、(1)蛇紋岩の滑石化、(2)滑石と苦鉄質変成岩の混合、(3)カルシウムに富む流体との反応という連続的な交代作用と岩石混合をへて形成されたと考えられる。滑石の存在は岩石の剪断強度を著しく弱めることが知られており(例えば、Hirauchi et al., 2013)、滑石化が蛇紋岩と苦鉄質変成岩の混合と剪断変形の局所化を促進したと考えられる。さらに、蛇紋岩の滑石化は著しい脱水を伴うことから高間隙水圧の維持に貢献した可能性があり、このことも剪断集中帯の形成を促進したと考えられる。このように、蛇紋岩の滑石化は沈み込みメランジュにおいて局所化した剪断変形と高間隙水圧の原因となる。
短期的スロースリップイベントは、高間隙水圧下で流体移動を伴いながら起きると考えられる(例えば、Ito et al., 2007; Tanaka et al., 2018)。このことは、長崎変成岩類のメランジュにおける剪断帯の形成過程と調和的である。滑石+蛇紋石(アンチゴライト)の安定領域は、沈み込みプレート境界に沿ってエクロジャイト相に相当する深度まで達し(Spandler et al., 2008)、短期的スロースリップイベントの発生域をカバーする。このことは、蛇紋岩の滑石化交代作用が短期的スロースリップイベントの発生に深く関わっている可能性を示唆する。
文献
Bebout, G. E., Penniston-Dorland, S. C. (2016) Lithos, 240–243, 228–258.
Hirauchi, K., den Hartog, S. A. M., Spiers, C. J. (2013) Geology, 41, 75–78.
Ito, Y., Obara, K., Shiomi, K., Sekine, S., Hirose, H. (2007) Science, 315, 503–506.
Mori, Y., Shigeno, M., Miyazaki, K., Nishiyama, T. (2019) J. Mineral. Petrol. Sci., 114, 170–177.
Nishiyama, T., Mori, Y., Shigeno, M. (2017) J. Mineral. Petrol. Sci., 112, 197–216.
Obara, K., Kato, A. (2016) Science, 353, 253–257.
Spandler, C., Hermann, J., Faure, K., Mavrogenes, J. A., Arculus, R. J. (2008) Contrib. Mineral. Petrol., 155, 181–198.
Tanaka, Y., Suzuki, T., Imanishi, Y., Okubo, S., Zhang, X., Ando, M., Watanabe, A., Saka, M., Kato, C., Oomori, S., Hiraoka, Y. (2018) Earth Planets Space, 70, 25.
Yoshioka, S., Murakami, K. (2007) Geophys. J. Int., 171, 302–315.
九州西部に露出した長崎変成岩類は、深さ約40 km、温度440〜530℃で変成された片岩類を主体としメランジュを伴う(Nishiyama et al., 2017; Mori et al., 2019)。このメランジュ中には、緑泥石アクチノ閃石片岩の剪断集中帯が発達する。緑泥石アクチノ閃石片岩は、野外観察の所見や全岩化学組成の特徴から、(1)蛇紋岩の滑石化、(2)滑石と苦鉄質変成岩の混合、(3)カルシウムに富む流体との反応という連続的な交代作用と岩石混合をへて形成されたと考えられる。滑石の存在は岩石の剪断強度を著しく弱めることが知られており(例えば、Hirauchi et al., 2013)、滑石化が蛇紋岩と苦鉄質変成岩の混合と剪断変形の局所化を促進したと考えられる。さらに、蛇紋岩の滑石化は著しい脱水を伴うことから高間隙水圧の維持に貢献した可能性があり、このことも剪断集中帯の形成を促進したと考えられる。このように、蛇紋岩の滑石化は沈み込みメランジュにおいて局所化した剪断変形と高間隙水圧の原因となる。
短期的スロースリップイベントは、高間隙水圧下で流体移動を伴いながら起きると考えられる(例えば、Ito et al., 2007; Tanaka et al., 2018)。このことは、長崎変成岩類のメランジュにおける剪断帯の形成過程と調和的である。滑石+蛇紋石(アンチゴライト)の安定領域は、沈み込みプレート境界に沿ってエクロジャイト相に相当する深度まで達し(Spandler et al., 2008)、短期的スロースリップイベントの発生域をカバーする。このことは、蛇紋岩の滑石化交代作用が短期的スロースリップイベントの発生に深く関わっている可能性を示唆する。
文献
Bebout, G. E., Penniston-Dorland, S. C. (2016) Lithos, 240–243, 228–258.
Hirauchi, K., den Hartog, S. A. M., Spiers, C. J. (2013) Geology, 41, 75–78.
Ito, Y., Obara, K., Shiomi, K., Sekine, S., Hirose, H. (2007) Science, 315, 503–506.
Mori, Y., Shigeno, M., Miyazaki, K., Nishiyama, T. (2019) J. Mineral. Petrol. Sci., 114, 170–177.
Nishiyama, T., Mori, Y., Shigeno, M. (2017) J. Mineral. Petrol. Sci., 112, 197–216.
Obara, K., Kato, A. (2016) Science, 353, 253–257.
Spandler, C., Hermann, J., Faure, K., Mavrogenes, J. A., Arculus, R. J. (2008) Contrib. Mineral. Petrol., 155, 181–198.
Tanaka, Y., Suzuki, T., Imanishi, Y., Okubo, S., Zhang, X., Ando, M., Watanabe, A., Saka, M., Kato, C., Oomori, S., Hiraoka, Y. (2018) Earth Planets Space, 70, 25.
Yoshioka, S., Murakami, K. (2007) Geophys. J. Int., 171, 302–315.