9:00 AM - 9:15 AM
[R11-O-1] Characteristics of external shape and internal structures of the uppermost Quaternary Shizunai submarine landslide in Hidaka Trough, offshore southern Hokkaido
Keywords:submarine landslide, Hidaka Trough, Shizunai Submarine Landslide
1.はじめに
海底地すべりが誘発する地すべり津波には,近年,防災上の注意が喚起されており,その規模や伝搬様式の数値シミュレーションが進んでいるが,多くは単純な形状の滑動体を前提としている.これは,海底地すべり現象の堆積地質学的な報告例が僅少なことが一因である.地すべり津波の挙動を正しく予測するために,海底地すべりの発生機構や滑動様式を堆積地質学的に正確に把握する必要がある.そこで著者らは,日高沖の「静内海底地すべり堆積体(以下,静内SLS)」が海底面直下に分布し震探上の分解能もよくコア試料の採取にも有利な点に着目し,堆積地質学的に現実的で数値シミュレーションに適用し得る地すべりモデルの構築を目指している.
2.静内SLSの特徴
日高トラフを埋積する厚い砕屑物には,多数かつ大量の海底地すべり堆積体が含まれている[1, 2].三次元震探の解釈からは,供給源方向に基づき8系統の,少なくとも86の第四系滑動体が確認された[3].静内SLSは,静内系統のもっとも新しい地すべり滑動体である[4].同滑動体は北海道南部日高沖約40km,水深約1,000m前後の陸棚斜面に位置し,南西方向に滑動した形跡をもつ.ある特定の層理面をすべり面とし,厚さ〜150m,長さ40km以上,幅約12kmの規模を有する.外郭は同層準の非変形層と垂直で明瞭な境界面で接し,側壁は直線的,下流側の前面は弓状である.層厚は,頭部外郭部で厚く尾部へ向かって減少する.また,頭部中央部から尾部中軸部にかけて上面に中央凹陥をもつ[5].
頭部は連続性の悪いスランプ褶曲で構成され,軸面は外郭側に傾倒し前面の弓状外壁と同心円をなす.滑動体内部の同心円状構造は,福島県沖の更新統でも観察される[6].尾部の反射面は不明瞭である.中央凹陥部で滑動体の層厚は薄いが,内部に残存ブロックを含む(図)[7].
3.海底地すべり研究の試み
海底地すべりは,構造傾動,堆積速度変化,相対海水準変動,メタンハイドレートの分解などが原因とされるが,主因を理解するためには「いつ,どこが,どのような速度で」滑動したかを特定する必要がある[8, 9].広い日高トラフ陸棚斜面のある一部に過ぎない静内SLSが滑動したことは,誘因が広域的であるにせよ弱層の存在が局所的であったためと,著者らはみている.しかし,こうした仮説を証明するためには,すべり面および同層準の滑らなかった面の岩相や物性の情報が不足している.
一方で,隣接する浦河SLSを掘り抜いた試錐の堆積物試料からは,滑動体と下位の非滑動堆積物とに大きな岩相の差異は観察されない[3].これは,地すべりの範囲を決定づけるものが岩相やすべり面の物性の差は微視的なものでしかない可能性を示唆する.また,その滑動体基底面が産ガスを確認した区間直近に相当する[10]ことは,僅かな孔隙の差や炭化水素の存在も弱層に関係する可能性を示唆する.
現在著者らは,静内SLS基底部のすべり面が,周囲の同層準の滑らなかった面となにがどのように異なるのか,新データ取得とその検討計画を策定中である.
文献
[1] 辻野・井上, 2012, 海洋地質図77; [2] Noda et al., 2013, Geochem. Geophy. Geosys.; [3] 小瀧MS, 2021, 秋大卒論; [4] Arato, 2019, JpGU Abst.; [5] 荒戸, 2018, 日本堆積学会要旨; [6] Arato and Martizzi, 2019, IAS Abst.; [7] 荒戸, 2019, 日本地質学会要旨; [8] Kawamura et al., 2014, Mar. Geol.; [9] 川村他, 2017, 地質雑; [10] 石油資源開発(株), 2020, 調査報告書.
海底地すべりが誘発する地すべり津波には,近年,防災上の注意が喚起されており,その規模や伝搬様式の数値シミュレーションが進んでいるが,多くは単純な形状の滑動体を前提としている.これは,海底地すべり現象の堆積地質学的な報告例が僅少なことが一因である.地すべり津波の挙動を正しく予測するために,海底地すべりの発生機構や滑動様式を堆積地質学的に正確に把握する必要がある.そこで著者らは,日高沖の「静内海底地すべり堆積体(以下,静内SLS)」が海底面直下に分布し震探上の分解能もよくコア試料の採取にも有利な点に着目し,堆積地質学的に現実的で数値シミュレーションに適用し得る地すべりモデルの構築を目指している.
2.静内SLSの特徴
日高トラフを埋積する厚い砕屑物には,多数かつ大量の海底地すべり堆積体が含まれている[1, 2].三次元震探の解釈からは,供給源方向に基づき8系統の,少なくとも86の第四系滑動体が確認された[3].静内SLSは,静内系統のもっとも新しい地すべり滑動体である[4].同滑動体は北海道南部日高沖約40km,水深約1,000m前後の陸棚斜面に位置し,南西方向に滑動した形跡をもつ.ある特定の層理面をすべり面とし,厚さ〜150m,長さ40km以上,幅約12kmの規模を有する.外郭は同層準の非変形層と垂直で明瞭な境界面で接し,側壁は直線的,下流側の前面は弓状である.層厚は,頭部外郭部で厚く尾部へ向かって減少する.また,頭部中央部から尾部中軸部にかけて上面に中央凹陥をもつ[5].
頭部は連続性の悪いスランプ褶曲で構成され,軸面は外郭側に傾倒し前面の弓状外壁と同心円をなす.滑動体内部の同心円状構造は,福島県沖の更新統でも観察される[6].尾部の反射面は不明瞭である.中央凹陥部で滑動体の層厚は薄いが,内部に残存ブロックを含む(図)[7].
3.海底地すべり研究の試み
海底地すべりは,構造傾動,堆積速度変化,相対海水準変動,メタンハイドレートの分解などが原因とされるが,主因を理解するためには「いつ,どこが,どのような速度で」滑動したかを特定する必要がある[8, 9].広い日高トラフ陸棚斜面のある一部に過ぎない静内SLSが滑動したことは,誘因が広域的であるにせよ弱層の存在が局所的であったためと,著者らはみている.しかし,こうした仮説を証明するためには,すべり面および同層準の滑らなかった面の岩相や物性の情報が不足している.
一方で,隣接する浦河SLSを掘り抜いた試錐の堆積物試料からは,滑動体と下位の非滑動堆積物とに大きな岩相の差異は観察されない[3].これは,地すべりの範囲を決定づけるものが岩相やすべり面の物性の差は微視的なものでしかない可能性を示唆する.また,その滑動体基底面が産ガスを確認した区間直近に相当する[10]ことは,僅かな孔隙の差や炭化水素の存在も弱層に関係する可能性を示唆する.
現在著者らは,静内SLS基底部のすべり面が,周囲の同層準の滑らなかった面となにがどのように異なるのか,新データ取得とその検討計画を策定中である.
文献
[1] 辻野・井上, 2012, 海洋地質図77; [2] Noda et al., 2013, Geochem. Geophy. Geosys.; [3] 小瀧MS, 2021, 秋大卒論; [4] Arato, 2019, JpGU Abst.; [5] 荒戸, 2018, 日本堆積学会要旨; [6] Arato and Martizzi, 2019, IAS Abst.; [7] 荒戸, 2019, 日本地質学会要旨; [8] Kawamura et al., 2014, Mar. Geol.; [9] 川村他, 2017, 地質雑; [10] 石油資源開発(株), 2020, 調査報告書.