日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R12[レギュラー]岩石・鉱物の変形と反応

[1ch301-08] R12[レギュラー]岩石・鉱物の変形と反応

2021年9月4日(土) 09:00 〜 11:45 第3 (第3)

座長:大橋 聖和、岡本 敦、向吉 秀樹、岡崎 啓史

09:00 〜 09:30

[R12-O-1] (招待講演)炭質物ラマン温度計の適用性と可能性

*纐纈 佑衣1 (1. 名古屋大学大学院環境学研究科)

キーワード:炭質物、ラマン分光法、地質温度計、変成岩、堆積岩、断層岩

炭質物ラマン温度計とは,岩石中に含まれる炭質物をラマン分光分析し,スペクトル解析によって岩石が被った最高被熱温度を算出する手法のことである。炭質物ラマン温度計はBeyssac et al. (2002)によってはじめて提案された。この時は,適用温度範囲が330-650℃,誤差が±50℃であり,主に変成岩への適用に限られていた。その後,誤差を小さくするための新たな較正式の提案(Aoya et al., 2010)や,続成作用を被った堆積岩など,より低温領域へ拡張するための新たな手法の開発(e.g., Kouketsu et al., 2014; Lünsdorf et al., 2017)に加えて,隕石(e.g., Homma et al., 2015)や断層岩(e.g., Furuichi et al., 2015)に適用可能な手法など,様々な岩石を対象とした炭質物ラマン温度計が提案され,適用性の広がりを見せている。加えて,天然や合成実験試料をベースにして,炭質物が被った被熱時間を考慮した反応式(Mori et al., 2017; Nakamura et al., 2017)や,断層岩など瞬時の加熱を受けた場合の炭質物の応答実験(Kaneki & Hirono, 2018)など,被熱温度以外の情報が引き出せる可能性も検証されている。
 炭質物ラマン温度計は,2002年に提案されて以来,その簡便性と汎用性の高さから,岩石試料の温度を見積もるためのスタンダートな手法となり,多くの研究で活用されている。本発表では,炭質物ラマン温度計についてレビューを行うとともに,これまでの適用例について紹介する。また,今後の新たな展開の可能性についても検討してみたい。

[引用文献]
Aoya, M., Kouketsu, Y., Endo, S., Shimizu, H., Mizukami, T., Nakamura, D. & Wallis, S. (2010) Journal of Metamorphic Geology 28, 895–914.
Beyssac, O., Goffe, B., Chopin, C. & Rouzaud, J.N. (2002) Journal of Metamorphic Geology 20, 858–871.
Furuichi, H., Ujiie, K., Kouketsu, Y., Saito, T., Tsutsumi, A. & Wallis, S. (2015) Earth and Planetary Science Letters 424, 191–200.
Homma, Y., Kouketsu, Y., Kagi, H., Mikouchi, T. & Yabuta, H. (2015) Journal of Mineralogical and Petrological Sciences 110, 276–282.
Kaneki, S. & Hirono, T. (2018) Earth, Planets and Space 70, 92.
Kouketsu, Y., Mizukami, T., Mori, H., Endo, S., Aoya, M., Hara, H., Nakamura, D. & Wallis, S. (2014) Island Arc 23, 33–50.
Lünsdorf, N.K., Dunkl, I., Schmidt, B.C., Rantitsch, G. & von Eynatten, H. (2017) Geostandards and Geoanalytical Research 41, 593–612.
Mori, H., Mori, N., Wallis, S., Westaway, R. & Annen, C. (2017) Journal of Metamorphic Geology 35, 165–180.
Nakamura, Y., Yoshino, T. & Satish-Kumar, M. (2017) American Mineralogist 102, 135–148.