日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R24[レギュラー]鉱物資源と地球物質循環

[3ch212-19] R24[レギュラー]鉱物資源と地球物質循環

2021年9月6日(月) 13:00 〜 15:30 第2 (第2)

座長:中村 謙太郎、見邨 和英

13:00 〜 13:30

[R24-O-1] (招待講演)レーザー質量分析計が切り拓く地質学研究の新展開
– 最近5年間の分析技術のブレークスルーを例に –

*平田 岳史1 (1. 東京大学大学院理学研究科)

キーワード:最先端計測技術、高精度年代分析、イメージング分析、ナノ粒子計測、ジルコン

岩石・鉱物の化学組成・同位体組成分析は,分析対象成分のダウンサイジング化(微小サイズ化),高感度化,そして分析の高速化へと推移している.これまで私達,分析化学者は様々な分析技術開発を通じて,多様化・高度化する地質学研究を支援してきた.地質学研究から要求される分析性能は,常に最先端の分析技術の導入が必要であった.試料は様々な元素が共存する複雑なマトリックス組成をもち,さらに試料間でその化学組成が大きく異なる.さらに年代分析・同位体トレーサー研究では,他の応用研究とは一線を画す,桁違いに高い分析精度が要求される.こうした厳しい分析要請を通じて,地質学と分析化学は相乗的に発展してきた.私達の研究グループでも,岩石・鉱物の元素組成・同位体組成分析を目的にレーザーアブレーション–プラズマ質量分析法(LA-ICPMS法)の開発を続けて来た.最近5年のブレークスルーは以下の3つに集約できる.(1) 高感度・高精度年代分析:レーザー発振・集光技術の向上により,数万〜数10万年程度の”若い”ジルコンの年代分析(Sakata et al., 2017; Matsu’ura et al., 2020)や,マルチクロノロジー年代学の基盤技術となるジルコン表皮部分の年代分析(Iwano et al., 2013; Iwano et al., 2020; Iwano et al., 2021)が可能となった.この技術は,岩石・鉱物試料だけではなく,最先端機能性材料や生体試料中の超微量元素分析の基盤要素技術となっている(Yokoyama et al., 2011; Makino et al., 2019).(2) イメージング分析:鉱物学研究では,様々な手法を用いて元素のマッピング分析(イメージング分析)が行われる.LA-ICPMS法は,cmサイズの大型試料に対し,主成分からppbレベルまでの8桁におよぶ多元素同時イメージング分析が可能である.最近2年で,分析の高速化と高空間分解能化,解析の自動化が加速している.(3) 超微粒子(ナノ粒子)の個別元素分析:質量分析技術において大きな進歩を遂げたのが対象イオン計測の高時間分解能化である.時間分解能を従来の100〜10,000倍に高めることで,5〜400nmサイズのナノ粒子の個別検出(Yamashita et al., 2021)や同位体分析が可能となった(Yamashita et al., 2020; Hirata et al., 2021).さらに信号の時間プロファイルの特徴から,分析元素の存在形態(溶存体か粒子体か)を区別しながらイメージング分析することにも成功している(Yamashita et al., 2019).ナノ粒子は,イオン(溶存体)とも固相(微粒子)とも異なる物性を示す.イオンから固相が形成される際に,必ずナノ粒子体を経由するため,固相形成過程あるいは沈殿形成過程で,全く新しい元素分別が誘起される可能性がある.講演者らは,このナノ粒子計測技術を応用することで,鉱床形成機構の解明や,放射性核種の環境動態解析,さらには生体内でのナノ粒子の毒性評価を行う予定である.私達,分析化学者は,全く新しい知見を引き出す分析手法の開発が使命である.2022年初頭には,最新の超高速質量分析計の導入が予定されており,イメージング分析のさらなる高速化やナノ粒子の全元素分析を開始する.本講演では講演者らが取り組んできた5年間の分析技術開発を概説するとともに,地質学研究の最先端研究者から,次の挑戦(分析学的な無理難題)の提示を受けたいと考えている.