日本地質学会第128年学術大会

講演情報

口頭発表

R24[レギュラー]鉱物資源と地球物質循環

[3ch212-19] R24[レギュラー]鉱物資源と地球物質循環

2021年9月6日(月) 13:00 〜 15:30 第2 (第2)

座長:中村 謙太郎、見邨 和英

14:30 〜 14:45

[R24-O-5] 日本列島付加体中のレアアース泥:安芸アンバー鉱床から復元した中期白亜紀の海水Os同位体組成

*藤永 公一郎1,2、中村 謙太郎2,1、大田 隼一郎2,1、矢野 萌生1,2、桑原 佑典2、安川 和孝2、高谷 雄太郎2,3,4、中山 健5、野崎 達生4,2,6,1、加藤 泰浩2,1,4 (1. 千葉工業大学、2. 東京大学、3. 早稲田大学、4. 海洋研究開発機構、5. 高知大学、6. 神戸大学)

キーワード:レアアース泥、アンバー、層状Fe-Mn鉱床、Os 同位体組成、中期白亜紀

2011年,講演者らの研究グループは,我が国の最先端産業に必要不可欠なレアアース (Rare-earth elements and yttrium, REY) を豊富に含有する海底堆積物「レアアース泥 (総レアアース濃度: ΣREY = 400 ppm以上)」を太平洋で発見した [1].次いで2012年には日本の排他的経済水域 (EEZ) 内である南鳥島周辺海域においてもレアアース泥の分布を確認し [2],2013年にはΣREYが7,000 ppmに達する「超高濃度レアアース泥」の存在を世界で初めて報告した [3,4].レアアース泥は,資源として有利な特長をいくつも兼ね備えることから,第4の海底鉱物資源として期待されており,世界初の海底鉱物資源開発の実現に向けた取り組みが進展中である.
一方で,プレート運動を考慮すると,深海底で堆積した「過去のレアアース泥」が大陸地殻に付加し,陸上に露出している可能性が考えられる.講演者らのこれまでの研究により,層状Fe-Mn鉱床 (アンバー: umber) と呼ばれるタイプの鉱床は,平均で740 ppm (最大2,400 ppm) に達するΣREYを持つことから,過去の海洋で堆積し,その後陸上に付加したレアアース泥である可能性が示唆されている [5-9].そこで本研究では,日本列島付加体に分布する代表的なアンバー鉱床の一つである「安芸アンバー鉱床」から採取したアンバー,赤色チャート,および関連する緑色岩試料について,詳細な地球化学的特徴およびRe-Os同位体組成について報告する.
本研究対象である安芸アンバー鉱床は,高知県安芸市に位置し,1960年代以前に低品位のFeやMnの鉱山として小規模に開発が行われてきた.安芸アンバー鉱床は緑色岩に伴われて産する暗赤褐色を呈する泥質岩で,上位には赤色チャート (Albian–Cenomanian: 113.0–93.9 Ma) が累重する [10].安芸アンバー試料の全岩化学組成は,Fe2O3*,MnO,CaO,P2O5,V,Co,Ni,Znに富むという特徴がある.また,ΣREYも最大で1,120 ppmと濃集しており,そのPAAS規格化REYパターンには著しいCe負異常を示すという特徴も示す.一方,現在の海洋底に分布するレアアース泥は,南鳥島EEZに分布するような生物源リン酸カルシウム (biogenic calcium phosphate: BCP) 成分や海水起源のマンガン酸化物の影響が強い「遠洋性粘土型レアアース泥」と,北米のファンデフカ海嶺近傍に分布するような熱水起源の鉄やマンガンの影響が強い「熱水性堆積物型レアアース泥」に大別できることが明らかになっている [11].本研究試料の安芸アンバーの化学組成をこれらのレアアース泥と比較すると,「熱水性堆積物型レアアース泥」と類似した特徴を持つことから,安芸アンバーは,中期白亜紀に堆積した熱水性堆積物型レアアース泥が陸上に付加したものといえる.
安芸アンバーのRe-Os同位体組成を測定した結果,その187Os/188Os比は0.554から0.668の範囲を示すことがわかった.この結果は,中期白亜紀の海水187Os/188Os比が現代の値 (~1.06) よりも低かったことを示しており,当時の活発な熱水活動を反映していると考えられる.また,白亜紀の他の時代から報告されているOs同位体比データを加えた検討の結果,白亜紀中期から後期にかけての海洋のOs同位体組成は,海洋無酸素事変 (oceanic anoxic events: OAEs) の時期を除いて0.4から0.6の範囲で比較的一定であったことが示唆された.

引用文献: [1] Kato et al. (2011a) Nature Geoscience 4, 535-539. [2] 加藤ほか (2012) 資源地質学会講演要旨集, 37. [3] 東京大学・JAMSTECプレスリリース (2013年3月21日). [4] Iijima et al. (2016) Geochemical Journal 50, 557-573. [5] 藤永・加藤 (2001) 資源地質 51, 29-40. [6] Kato et al. (2005a) Geochemistry, Geophysics, Geosystems 7, Q07004. [7] Kato et al. (2005b) Resource Geology 55, 291-299. [8] Kato et al. (2011b) Gondwana Research 20, 594–607. [9] 藤永ほか (2011) 資源地質 61, 1-11. [10] Taira et al. (1988) Modern Geology 12, 5–46. [11] Yasukawa et al. (2016) Scientific Reports 6, 29603.