日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R21[レギュラー]第四紀地質

[3poster69-76] R21[レギュラー]第四紀地質

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R21-P-2] 長野県北部,野尻湖西方で発見された活断層沿いの地下地質

*竹下 欣宏1、関 めぐみ2、近藤 洋一2、花岡 邦明、宮下 忠、中川 知津子3、廣内 大助1、野尻湖 地質グループ (1. 信州大学、2. 野尻湖ナウマンゾウ博物館、3. 戸隠中学校)

キーワード:活断層、野尻湖、地下地質、テフラ、堆積環境

長野県信濃町にある野尻湖西方において,西側隆起西傾斜の活断層露頭と変動地形が発見された(竹下ほか,2020;廣内・竹下,2020).この露頭では約68~43kaに噴出堆積した黒姫・妙高火山起源のテフラ層が明瞭に断ち切られている.池尻川岩屑なだれ堆積物で構成される断層隆起側の丘陵を池尻川が先行谷化して流れており,明瞭な変動地形が認められる.
 本研究では断層下盤側の池尻川低地において2地点のボーリング掘削調査を実施し,2本のコア(IJ19・IJ20)を採取した.その結果,池尻川低地には池尻川岩屑なだれ堆積物の上位にテフラ層を挟む水成層が最大で約14m堆積していること,さらに池尻川低地における堆積環境の急激な変化が4回あったことが明らかになった.本報告では池尻川低地の堆積環境を変化させた要因について議論する.

 採取した2本のコアを半割し,柱状図を作成した.IJ19は層相に基づき5層準に区分できる.1)地表から深度1.16mは主に泥炭層からなる.2)深度1.16-1.76mは主に灰褐色シルト層からなる.3)深度1.76~5.58mは主に泥炭層からなる.4)深度5.56-8.97mは主に砂礫層からなる.5)深度8.97-20.00mは安山岩礫を含む凝灰角礫層からなる.IJ20も層相に基づき 5層準に区分できる.1)地表から深度2.22mは主に泥炭層からなる.2)深度2.22-4.84mは主に明灰褐色シルト層からなり,基底部は粗い砂層からなる.3)深度4.87-8.00mは主に泥炭層からなり,ガラス質火山灰層と火山灰の薄層を数枚の挟み,基底部にはスコリア質火山礫が多く混じる.4)8.00-13.81mは主に砂礫層からなり,テフラ層やその再堆積物が挟まれる.5)深度13.81-18.00mは安山岩礫を含む凝灰角礫層からなる.
 両コア中に挟まれるテフラ層について,野尻湖地質グループ(1984)で記載された野尻湖周辺のテフラ層([ ]で囲んだ名称)との対比を試みた.その結果,IJ19の深度1.98-2.03mのガラス質火山灰層は[ヌカⅠ]に,深度5.31-5.41mと5.42-5.53mの黒色スコリア層は[赤スコ]と[青ヒゲ]に,深度8.49-8.64mの灰色粗粒火山灰層と深度8.68-8.88mの赤褐色粗粒火山灰は,[灰ザラ]と[レンガ]にそれぞれ対比される.IJ20の深度5.68-5.63mのガラス質火山灰層は[ヌカⅠ]に,スコリア質火山礫が多く混じる層準(深度7.62-8.00m)は[赤スコ]と[青ヒゲ]に,深度8.25~8.08mの暗灰色スコリア質粗粒火山灰層は[ドライカレー]に,深度8.41~8.25mの紫灰色火山灰層は[粉アズキ]に,深度8.76~8.53mの黄灰色火山礫層は[ブレッチャーゾーン]に,深度9.73~9.15の灰色火山灰層と暗灰色スコリア層の互層は[三点セット]に,深度9.87~9.84mの黄白色軽石質火山灰層は[黄ゴマ]に,深度10.20~10.14mの黒色スコリア層は[ノミ]にそれぞれ対比される.また,IJ19とIJ20の凝灰角礫層は,池尻川岩屑なだれ堆積物に対比される.以上の対比からIJ19とIJ20の層相境界は同層準であり,堆積環境の変化が4回あったことを示している.

 もっとも明瞭な層相境界は,IJ19の深度5.58mとIJ20の深度8.00mにある砂礫主体の地層と泥炭層の境界である.この境界は長橋・石山(2009)により約4.4万年前と推定された[青ヒゲ]の直下に位置する.砂礫が堆積する流水環境から泥炭の堆積する湿地の環境に変化する要因としては,岩屑なだれ,土石流,溶岩,火砕流,地すべりなどの堆積物による塞き止めや断層活動による下流部の隆起が考えられる.早津(2008)によると池尻川低地周辺には池尻川ラハール堆積物と駒爪岩屑なだれ堆積物が分布するが,池尻川ラハール堆積物は約6.1万年前の[三点セット]に対比される黒姫-大平スコリアの噴出にともなう堆積物,駒爪岩屑なだれ堆積物は完新世の堆積物であるため,[青ヒゲ]直下の層相境界と年代が異なる.また,池尻川流域には顕著な地すべり地形も認められない.このため池尻川低地において[青ヒゲ]直下で起きた堆積環境の変化は,堆積物や地すべりによる塞き止めではなく,断層による隆起が主な要因であると考えられる.

引用文献:早津(2008)妙高火山群,実業公報社,424p.廣内・竹下(2020)日本活断層学会2020年度秋季学術大会講演予稿集,24-25.長橋・石山(2009)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,17,1-57.野尻湖地質グループ(1984)地団研専報,27,23-44.竹下ほか(2020)日本活断層学会2020年度秋季学術大会講演予稿集,22-23.