日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R21[レギュラー]第四紀地質

[3poster69-76] R21[レギュラー]第四紀地質

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R21-P-6] (エントリー)更新統下総層群木下層(MIS5e)の有孔虫・貝形虫化石群集から推定される古環境変遷

*原島 舞1、中澤 努2、小沢 広和3、金子 稔、石川 博行、野村 正弘4、上松 佐知子1 (1. 筑波大学、2. 産業技術総合研究所地質調査総合センター、3. 日本大学、4. 駿河台大学)

キーワード:有孔虫、貝形虫、木下層、MIS 5e、古東京湾

更新統下総層群木下層は最終間氷期(MIS5e)の浅海性堆積物からなり,谷埋め状に分布する泥層主体の下部と広範囲に分布する砂層主体の上部に分けられる(中澤・遠藤,2002;中澤・田辺,2011).下部は開析谷システム,上部はバリアー島システムで形成されたことが明らかにされている(岡崎・増田,1992;中澤ほか,2006).Nakazawa et al.(2017)は下総台地の木下層の堆積環境について明らかにするとともに,花粉化石からMIS5eを3期に分けた堆積年代を示した.そこで本研究では,木下層の古環境変遷をより詳細に推定するため,有孔虫化石および貝形虫化石を用いた古環境推定を行った.
 使用した試料はNakazawa et al.(2017)で使用されたボーリングコア試料のうち,千葉県成田市松崎で掘削されたGS-NT-1(以下,成田コア)と,千葉県流山市西初石で掘削されたGS-NY-1(以下,流山コア)の2つのコアである.これらのコアは同一の開析谷内で掘削され,成田コアは外洋側,流山コアは河口側に位置している(Nakazawa et al., 2017).成田コアについては41試料を処理し,このうち有孔虫化石は37試料から,貝形虫化石は34試料から産出した.底生有孔虫は60属108種,浮遊性有孔虫は8属35種,貝形虫化石は33属81種の産出が認められた.流山コアは40試料を処理し,このうち有孔虫化石は22試料,貝形虫化石は19試料から産出した.底生有孔虫化石は31属54種,浮遊性有孔虫は5属9種,貝形虫化石は38属77種の産出が認められた.有孔虫・貝形虫化石の産出状況から,成田コアおよび流山コアのそれぞれについて化石帯を区分し,古環境推定を行った.
 成田コアは下位から上位に向かって,有孔虫化石群集はNTFo-I帯~NTFo-VII帯,貝形虫化石群集はNTOs-I帯~NTOs-V帯に分けられる.有孔虫,貝形虫ともに木下層の下部では内湾環境を示し,湾奥部の環境から上位に徐々に水深が増加し湾央部に近くなるが,その後,一旦浅海化した.そして再び上位に向かって水深が増加したことが推定される.木下層上部では沿岸部の環境が推定され,有孔虫化石と貝形虫化石から推定される古環境変遷はおよそ一致する.堆積相と比較すると,下部で浅海化した層準はNakazawa et al.(2017)の砂州相にあたり,砂州の後退による埋め立てが影響している可能性が考えられる.
 流山コアは下位から上位に向かって,有孔虫化石群集はNYFo-I帯~NYFo-V帯,貝形虫化石群集はNYOs-I帯~NYOs-IV帯に分けられる.木下層の下部では単調に湾が大きくなり,上部になると内湾環境から沿岸部の環境へ変化したことが有孔虫化石と貝形虫化石の両者から推定される.Nakazawa et al.(2017)の堆積相と比較すると,化石群集より内湾から沿岸部へ環境が変化したことが推定される時期は,堆積相では開析谷システムの中央盆相からバリアー島システムの上げ潮デルタ相へ変化する時期と一致する.また,化石群集の解析により,中央盆相内をさらに3つに区分することができた.
 全体的に有孔虫化石と貝形虫化石で推定される古環境,特に古水深はおおよそ一致し,堆積相とも矛盾のない結果となった.しかしながら,寒流の影響を示唆する有孔虫化石Buccella frigidaと,暖流の影響を強く受ける亜熱帯種の貝形虫化石Neomonoceratina delicataの両者が多産する層準があり,古水温に矛盾が生じた.これは,木下層堆積時の千葉県沖が寒流と暖流が混じる環境であったため,寒暖の混じる群集になった可能性が考えられる.
 成田コアと流山コアを比較すると,亜熱帯種の貝形虫N. delicataが多産する層準が両者に認められ,成田コアのNTOs-IV帯と流山コアのNYOs-II帯が比較できる.Nakazawa et al.(2017)によれば,この層準は花粉化石群集からMIS5e前期と中期の境界付近に相当する.花粉化石群集からもこの時期は温暖な環境であることが推定されており,本研究の結果は花粉化石から得られる古環境とも矛盾しない.

文献
中澤ほか(2006)地質雑,112,349–368.
中澤・遠藤(2002)大宮地域の地質.5万分の1地質図幅.
中澤・田辺(2011)野田地域の地質.5万分の1地質図幅.
Nakazawa et al.(2017)Quat. Int., 456, 85–101.
岡崎・増田(1992)地質雑,98,235–258.