4:00 PM - 6:30 PM
[R21-P-7] (entry) Stratigraphic correlation of Quaternary marine deposits beneath the Tokushima Plain inferred from electric conductivity and fossil pollen analyses of the Bando observation well core, western Japan
Keywords:Median Tectonic Line Fault Zone, pollen biostratigraphy, electric conductivity analysis, Kitajima Formation, Yoshino River
はじめに
徳島平野は最大幅約10 km,奥行き約75 kmの大きさを有する海岸平野である.大局的にみて,同平野は,北縁の中央構造線断層帯の活動で生じた堆積盆を,吉野川などの供給した土砂が埋積して形成されたと捉えられる.同平野の第四系地下地質は上位から順に徳島層と北島層の2層に大別され,それぞれ沖積層と,それ以前の更新統に対比されている(Kawamura, 2006; 川村・西山, 2019).このうち,北島層は貝化石の有無から複数の海成層が含まれる可能性が指摘されているものの,これまで詳しい堆積年代や堆積環境は明らかにされていない.そこで,本研究では,徳島平野で掘削された長尺のボーリング・コア試料を用いて,堆積物懸濁液の電気伝導度(EC)測定と,花粉化石組成とに基づき,北島層中に含まれる海成層の認定と,それぞれの堆積時期について考察した.
試料と方法
本研究では板東観測井コアを対象とした.このコアは地質調査所によって1995年に掘削された掘削深度502 mの試料である.掘削当時に層相記載,花粉分析(計14点)および古地磁気測定(計14点)が実施されており,その結果からコア試料中に複数の氷期・間氷期サイクルが保存されている可能性と,深度339~440 mにBrunhes-Matsuyama境界が位置する可能性が指摘されている(松本・荒井, 2021).本研究では,掘削深度90 m以深の地層から採取した計64点のEC測定と,計8点の追加の花粉化石分析を実施した.
結果と考察
EC測定の結果,海成層(0.6 mS/cm以上の測定値が連続的に得られた層準)が計5層準(M1: 深度93.4~102.45 m,M2: 228.08~237.00 m,M3: 258.83~263.98 m,M4: 288.06~288.60 m,M5: 305.50 m)で見いだされた.また,これよりもさらに下位には,連続性が悪いものの0.6 mS/cm以上の測定値を示す層準が計4層準(深度326.48 m,339.43 m,368.98 m,437.92 m)で見いだされた.
次に,既存・新規の花粉分析結果に基づき,大阪湾周辺の花粉化石層序(本郷, 2009など)との対比から,これらの海成層の堆積年代を検討した.まず,M1層準は,サルスベリ属Lagerstroemiaの花粉化石が最大で約15%と多産することから,海洋酸素同位体ステージ[MIS]5に堆積したと考えられる.また,M3層準ではコナラ属アカガシ亜属Quercus (Subgen. Cyclobalanopsis) が約76%と極めて高率で産出することから,MIS11に対比される.
仮にこれらの層序対比が正しいとすると,両層準に挟まれるM2層準はMIS7または9に対比される.M2層準では下部から上部に花粉化石組成が変化し,下部ではトウヒ属Piceaやモミ属Abiesなど,上部ではマツ属Pinus,クマシデ属Carpinus/アサダ属Ostrya,ブナ属Fagusが多く産出する.また,スギ属Cryptomeriaなども低率ながら随伴する.これらの組成の特徴は本郷(2009)のPinaceae -Cryptomeria超帯下部と類似し,M2層準がMIS9に対比される可能性を示唆する.他方,M4およびM5層準は,いずれもB-M境界よりも上位であることを考慮すると,MIS13,15,17のいずれかに対比されると考えられる.このうちM4層準は,Q. (Subgen. Cyclobalanopsis) がほとんど産出せず,Picea,Cryptomeria,ヒノキ科Cupressaceaeが多産する特徴から,MIS13に対比される可能性が高い.M5層準は花粉化石の産出数が少ないものの,メタセコイア属MetasequoiaやQ. (Subgen. Cyclobalanopsis) を低率ながら伴うこと,Cryptomeriaが多産すること,下位に比べてコナラ属コナラ亜属Quercus (Subgen. Lepidobalanus)が低率であることから,MIS15に対比される可能性が示唆される.深度437.92 mはQ. (Subgen. Lepidobalanus) が優勢で逆帯磁することから,MIS19より古い可能性が高い.
引用文献
本郷美佐緒 (2009) 地質学雑誌 115, 64–79.
Kawamura, N. (2006) Journal of Geosciences, Osaka City University 49, 103–117.
川村教一・西山賢一 (2019) 地質学雑誌 125, 87–105.
松本則夫・荒井 正 (2021) 地質調査総合センター研究資料集, no. 713, 地質調査総合センター.
徳島平野は最大幅約10 km,奥行き約75 kmの大きさを有する海岸平野である.大局的にみて,同平野は,北縁の中央構造線断層帯の活動で生じた堆積盆を,吉野川などの供給した土砂が埋積して形成されたと捉えられる.同平野の第四系地下地質は上位から順に徳島層と北島層の2層に大別され,それぞれ沖積層と,それ以前の更新統に対比されている(Kawamura, 2006; 川村・西山, 2019).このうち,北島層は貝化石の有無から複数の海成層が含まれる可能性が指摘されているものの,これまで詳しい堆積年代や堆積環境は明らかにされていない.そこで,本研究では,徳島平野で掘削された長尺のボーリング・コア試料を用いて,堆積物懸濁液の電気伝導度(EC)測定と,花粉化石組成とに基づき,北島層中に含まれる海成層の認定と,それぞれの堆積時期について考察した.
試料と方法
本研究では板東観測井コアを対象とした.このコアは地質調査所によって1995年に掘削された掘削深度502 mの試料である.掘削当時に層相記載,花粉分析(計14点)および古地磁気測定(計14点)が実施されており,その結果からコア試料中に複数の氷期・間氷期サイクルが保存されている可能性と,深度339~440 mにBrunhes-Matsuyama境界が位置する可能性が指摘されている(松本・荒井, 2021).本研究では,掘削深度90 m以深の地層から採取した計64点のEC測定と,計8点の追加の花粉化石分析を実施した.
結果と考察
EC測定の結果,海成層(0.6 mS/cm以上の測定値が連続的に得られた層準)が計5層準(M1: 深度93.4~102.45 m,M2: 228.08~237.00 m,M3: 258.83~263.98 m,M4: 288.06~288.60 m,M5: 305.50 m)で見いだされた.また,これよりもさらに下位には,連続性が悪いものの0.6 mS/cm以上の測定値を示す層準が計4層準(深度326.48 m,339.43 m,368.98 m,437.92 m)で見いだされた.
次に,既存・新規の花粉分析結果に基づき,大阪湾周辺の花粉化石層序(本郷, 2009など)との対比から,これらの海成層の堆積年代を検討した.まず,M1層準は,サルスベリ属Lagerstroemiaの花粉化石が最大で約15%と多産することから,海洋酸素同位体ステージ[MIS]5に堆積したと考えられる.また,M3層準ではコナラ属アカガシ亜属Quercus (Subgen. Cyclobalanopsis) が約76%と極めて高率で産出することから,MIS11に対比される.
仮にこれらの層序対比が正しいとすると,両層準に挟まれるM2層準はMIS7または9に対比される.M2層準では下部から上部に花粉化石組成が変化し,下部ではトウヒ属Piceaやモミ属Abiesなど,上部ではマツ属Pinus,クマシデ属Carpinus/アサダ属Ostrya,ブナ属Fagusが多く産出する.また,スギ属Cryptomeriaなども低率ながら随伴する.これらの組成の特徴は本郷(2009)のPinaceae -Cryptomeria超帯下部と類似し,M2層準がMIS9に対比される可能性を示唆する.他方,M4およびM5層準は,いずれもB-M境界よりも上位であることを考慮すると,MIS13,15,17のいずれかに対比されると考えられる.このうちM4層準は,Q. (Subgen. Cyclobalanopsis) がほとんど産出せず,Picea,Cryptomeria,ヒノキ科Cupressaceaeが多産する特徴から,MIS13に対比される可能性が高い.M5層準は花粉化石の産出数が少ないものの,メタセコイア属MetasequoiaやQ. (Subgen. Cyclobalanopsis) を低率ながら伴うこと,Cryptomeriaが多産すること,下位に比べてコナラ属コナラ亜属Quercus (Subgen. Lepidobalanus)が低率であることから,MIS15に対比される可能性が示唆される.深度437.92 mはQ. (Subgen. Lepidobalanus) が優勢で逆帯磁することから,MIS19より古い可能性が高い.
引用文献
本郷美佐緒 (2009) 地質学雑誌 115, 64–79.
Kawamura, N. (2006) Journal of Geosciences, Osaka City University 49, 103–117.
川村教一・西山賢一 (2019) 地質学雑誌 125, 87–105.
松本則夫・荒井 正 (2021) 地質調査総合センター研究資料集, no. 713, 地質調査総合センター.