日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R22[レギュラー]地球史

[3poster77-82] R22[レギュラー]地球史

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R22-P-2] (エントリー)カナダ・フリンフロン帯中に分布するタービダイトの堆積年代制約と堆積環境推定:後期古原生代の地球表層環境復元

*元村 健人1、清川 昌一1、堀江 憲路2、佐野 貴司3、竹原 真美2 (1. 九州大学、2. 国立極地研究所、3. 国立科学博物館)

キーワード:古原生代、ジルコンU-Pb年代

古原生代(25-16億年前)は地球表層環境が大きく変化した時代の1つである.中でも約24億年前に始まった大酸化事変(Great Oxidation Event; GOE)は地球史上最大の大気酸素濃度急上昇イベントであり,地球表層環境を大きく変えた(Lyons et al., 2014).また22−20億年前の炭酸塩堆積物などからは,一次生産の活発化による+10‰に及ぶ炭素同位体比の正異常(Lomagundi Event)が報告されており(e.g. Melezhik et al., 2007),当時の海洋は酸化的環境であったことが示唆されている.しかしLomagundi Eventの終焉とその後の地球環境変動については未だ不明である.そこで本研究では,カナダ・フリンフロン帯から得られた黒色頁岩を含むコア試料(TS07-01)について,ジルコンU-Pb年代分析による堆積年代の制約と,黒色頁岩中微量元素濃度分析による酸化還元状態の推定を行った.
 研究対象のフリンフロン帯には約19.2–18.4億年前に形成された火成岩・堆積岩が保存されている(Lucas et al., 1996).約18.8億年前の島弧―島弧衝突を境に,衝突前の海洋プレート,島弧火成岩,堆積岩などから構成されるAmisk collage(19.2−18.8億年前)と衝突後の陸上堆積岩から構成されるMissi Group(~18.4億年前)が識別されている.また,フリンフロン帯には断層に挟まれたタービダイトが各地に点在する.本研究で分析試料とした掘削コアはマニトバ州フリンフロン北東に位置するEmbury湖から得られており,約440mのタービダイト性砂岩ー黒色頁岩互層部と約10mの流紋岩(Rhyolite unit)から構成される.先行研究において,Embury湖に分布する砂岩ー黒色頁岩互層は衝突に伴って形成された背弧海盆の堆積物(18.4億年前;Burntwood Group)のクリッペであると考えられてきた(Ordóñez-Calderón et al., 2016).またMotomura et al. (2020)では,コア試料(TS07-01)に含まれる黒色頁岩中の全硫黄−全有機炭素比(TS/TOC)が現世の淡水堆積物の値と同等である事から(~0.04),硫酸イオンに乏しく,硫酸還元菌の活動が著しく制限された環境であったことを示した.
 コア試料(TS07-01)中の砂岩―黒色頁岩互層部は褶曲により上下が大きく4度入れ替わっており,それぞれN1 (~20 m), R1 (~240 m), N2 (~10 m), R2 (~50 m), N3(~120 m) unitを識別した.Rhyolite unitとN3 unitの境界付近は約30mにわたって強い変形を被っている.砂岩は主要鉱物として石英や斜長石を含み,副成分鉱物としてジルコン,アパタイト,チタン酸化物等を含む.黒色頁岩はシルトサイズの石英粒子と粘土鉱物,微量の黄鉄鉱を含む.
 UーPb年代分析の結果,流紋岩から分離したジルコンについて,1880.4±3.7Ma (n=81,MSWD=0.92),1882.6±4.8 Ma (n=49,MSWD=0.94)の年代を得た.流紋岩と接するN3 unit中の砂岩から分離されたジルコンは1862.2±2.6Ma(n=151,MSWD =0.77)を示した.
 N1 unit中の黒色頁岩の元素濃度分析(Mn, V, Cr, Ni, U)により,それぞれMn: 200–500 ppm, V: 80–200 ppm,Cr: 60–200 ppm,Ni: 20–60 ppm,U: 2–6 ppmの結果を得た.これらのRedox-sensitive elements(特にV, Cr, U)は砕屑物指標としたAlとの強い相関を示す(R2>0.7).一方でMnやNiはPAASに比べて低い濃集度(MnEF, NiEF < 0.8)を示す.このことから,堆積環境はMnの酸化や,V,U等 の還元が起こらない貧酸素環境(suboxic)であると推定した.この結果はLomagundi Event後に大気酸素濃度が減少した可能性を示す.

参考文献
Lucas et al., 1996, GSA Bulletin, 108, 602–629.
Lyons et al., 2014, Nature, 506, 307–315.
Melezhik et al., 2007, Geology, 35, 655–658.
Motomura et al., 2020, Island Arc, 29, e12343.