日本地質学会第128年学術大会

講演情報

ポスター発表

R22[レギュラー]地球史

[3poster77-82] R22[レギュラー]地球史

2021年9月6日(月) 16:00 〜 18:30 ポスター会場 (ポスター会場)

16:00 〜 18:30

[R22-P-4] カナダ・ラブラドル地域から産出した初期太古代堆積岩中のグラファイトの炭素同位体比分析の予察的結果

*伊規須 素子1、田中 健太郎2、高畑 直人2、小宮 剛2、佐野 有司3、高井 研1 (1. 海洋研究開発機構、2. 東京大学、3. 高知大学)

キーワード:グラファイト、初期太古代、炭素同位体比、ナノシムス

太古代(25億年前以前)堆積岩中の炭質物の研究は、地球の初期生命史を解明するための最も直接的かつ確実な方法である。地質記録から生命の痕跡を探索する強力な手段の一つは、堆積岩に保存された炭質物の化学組成を解読することである。従来、太古代堆積岩中の炭質物から生命活動を認定する指標として炭素の安定同位体比が用いられてきた(例えばSchidlowski, 2001)。 Tashiro et al. (2017)は、カナダ・ラブラドル地域から採取された約39.5億年前の堆積岩中の炭酸塩と炭質物間に安定炭素同位体比のシフトがあること、炭質物から見積もった熟成温度が周囲の鉱物から得た変成温度と調和的であることを報告した。この報告は、地球最古の生命の痕跡を示唆するものとして注目を浴びた。しかし、炭素同位体比は主に全岩から得られたものであり、個々の炭質物については2試料からしか得られておらず、後の時代の有機物混入の問題がある。また、炭質物が堆積時に存在したか否かを判定するために重要な炭質物の熟成温度について、炭素同位体比を得た試料全ての熟成温度を算出した訳ではなく、データに不十分な点があった。
本研究では、地球最古の生命の痕跡を保持し得るカナダ・ラブラドル地域の炭質物に対し、薄片内での空間分布やラマンスペクトルを考慮し、初生的な炭質物の炭素同位体比を得ることを目的とする。演者らは、Tashiro et al. (2017)において全岩の炭素同位体比が報告された堆積岩29試料中のうち、ラマンスペクトルのデータが欠如していた22試料の顕微ラマン分光分析を行い、炭質物の熟成温度が母岩から見積もられた変成温度と調和的な炭質物と、それらより低い値をもつ炭質物が存在することを明らかにした(伊規須ほか,2019)。本発表では、光学顕微鏡観察と顕微ラマン分光分析の結果から初生的な炭質物、すなわちグラファイトと判断した粒子に対し、二次イオン質量分析計(NanoSIMS)による炭素同位体比(δ13C)分析を行った予察的結果を報告する。
上述の堆積岩29試料の光学顕微鏡観察を行い、グラファイトを鉱物に包有されるもの・鉱物粒間に存在するものの2つに分類した。泥質岩4試料、チャートノジュール1試料、炭酸塩岩2試料を選定し、NanoSIMSでスポット分析した。その結果、鉱物粒間に存在するグラファイトのδ13Cは、基本的に全岩のそれを支持した。NanoSIMS分析ではプレスパッタリングによって試料表面を洗浄し、スパッタリングによって試料表面から放出される二次イオンを検出するが、包有されるグラファイトでは、分析中に炭素のイオン強度が減少することがあった。これはグラファイトのサイズが長さ数μm幅1μm程度と極めて小さいためと考えられる。そのため、イメージング分析を適用し、プレスパッタリングによる試料の消失を避け、イオンイメージの経時変化をもとに、イオン強度が安定した後のデータを取得することを試みた。イメージング分析の結果、包有されるグラファイトのδ13Cは-5‰から-30‰と見積もられた。包有されるグラファイトは泥質岩で観察される。泥質岩中で、粒間に存在するグラファイトのδ13Cは-15‰から-25‰であるため、包有されたグラファイトの方がより不均質な可能性がある。ただし、イメージング分析では、データ処理の設定を変更することでδ13Cの値に10‰以上の差が生じる粒子や、繰り返し測定においてδ13C値が安定しなかった粒子がある。今後、より正確なδ13C値を決定し、グラファイトの起源を推定するために、試料の再測定やデータ処理法の再検討等を行う必要がある。