日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T14.[トピック]大地と人間活動を楽しみながら学ぶジオパーク

[2oral101-10] T14.[トピック]大地と人間活動を楽しみながら学ぶジオパーク

2022年9月5日(月) 09:30 〜 12:00 口頭第1会場 (14号館501教室)

座長:天野 一男(東京大学空間情報科学研究センター)、松原 典孝(兵庫県立大学 大学院 地域資源マネジメント研究科)

10:00 〜 10:15

[T14-O-3] 山陰海岸ジオパーク京丹後エリアにおける漁港の立地と地形的特徴・地質学的特徴の関係性解明

*松原 典孝1,2、石井 三重子、目代 邦康3 (1. 兵庫県立大学 大学院 地域資源マネジメント研究科、2. 山陰海岸ジオパーク推進協議会、3. 東北学院大学)

キーワード:ジオパーク、地形、地質、漁港、山陰海岸ジオパーク

持続可能な地域を実現する上で,地域社会における自然資源利用に関する伝統知の解明,すなわち人間の自然環境利用の実態把握が求められている.地形学・地質学・地理学的環境の利用に関する伝統知の重要性も主張されており(鬼頭,2016),適切な地域資源マネジメントのために,地形学や地質学などの科学知と伝統知の関係を捉えなおす必要がある.
 島国日本には漁港が多い.日本は台風や季節風・津波など自然の猛威が世界的にみても厳しいところで,元来日本の漁業はそれらの猛威から守られる地形構造のところに立地してきた(堀,1995;土井・堀1996).日本の漁港の地形構造の類型化を行った土井・堀(1996)は,自然地形を利用した漁港のほとんどが,崎山(岬状に山が沖に突出している地形)や入り江,前島(沖にある島)やそれらの複合的要素で囲まれた場所に立地するとした. これらは,それぞれの地域の自然条件の中で人々が作り出した伝統知の結果である.
 近畿地方の日本海側に位置する山陰海岸ジオパークにおいては,リアス海岸の入り江が天然の良港として利用されてきたことが報告されている(先山ほか,2012).しかし,丹後半島の北側に位置する京丹後市沿岸の地形は,リアス海岸の地形要素も存在するものの,海岸段丘が発達(植村,1981)し,リアス海岸地形が残っていない地域が存在する.では,リアス海岸の地形が残っていない場所ではどのような地形を漁港に使用しているのだろうか.土井・堀(1996)は,様々な自然地形を人々が漁港として利用していることを指摘したが,その地形がどのようにしてできたのか,特に,地質と地形の関係については言及していない.一方で,地形形成には地質(岩質)の違いが大きな影響を与えることが知られている(Asheley,G,H,1935など).固結した岩石から成る海岸すなわち岩石海岸における地形変化は,地殻変動および氷河性海水準変化に起因する変化を除けば,もっぱら波浪による構成岩石の除去すなわち侵食変形であり,岩石の侵食に対する抵抗力を波の侵食力が上回ると侵食が起こる(砂村,1975;Sunamura, 1994など).また,強度の異なる地質が隣接してある場合,軟らかい地質が早く風化・侵食され,硬い地質が風化・侵食されないなど,差別侵食による地形は,地形と地質とが対応関係にある(高橋,1975;辻本,1985;森山・青木,2020など)ことが指摘されている.京丹後地域沿岸は火成岩や堆積岩が複雑に分布する.本研究では京丹後周辺においても漁港には強い季節風を遮る岬や岩礁が存在し,それがつくる地形を利用していると考え,京丹後市の行政上の指定漁港13港を対象に,①漁港の地形の特徴を解明②その地形がどのような過程でつくられているのかを漁港周辺を構成する地質の特徴も踏まえて考察し,漁港立地と地形地質の関係を検証した.
 調査の結果,京丹後地域の漁港に使われている場所は,①リアス海岸地形の入り江に泊地が存在するところ(6港)と,②リアス海岸地形がないが,岬・島・岩礁に囲まれた入り江に泊地があるところ(7港),また③リアス海岸地形でありながら,岬・島・岩礁が存在する「複合タイプ」の漁港(3港)に分けられた.②と③に存在する岬・島・岩礁はどのようにできたかを検討するために,漁港周辺を構成する地質の岩石強度を,シュミットハンマーを用いて調べたところ,岬・島・岩礁は,一つを除き,岩石強度の大きい岩石と岩石強度の小さい岩石が存在し,岩石強度の大きい岩石はどれも安山岩からなることが分かった.これらの漁港では岩石強度の違いから差別侵食がすすみ,安山岩が岬・島・岩礁となり漁港に利用できる地形がつくられると考えられる.調査した海食崖下の礫浜の礫組成をみると,岩石強度の大きな岩石を起源とした礫が優占している.これが研磨剤となり岩石強度の小さい岩石を侵食したと考えられる.
<引用文献>Asheley, G. H., 1935. But, Geol, Soc, Am, vol. 46, 1395-1436.
土井良浩・堀繁,1996. 第31回日本都市計画学会学術論文研究集,296.
堀繁,1995.沿岸域第8巻第1号, 8-31.
鬼頭秀一 2016.E-journal GEO, 11, 329.
森山雄太・青木久,2020.学芸地理76号,25.
先山徹ほか,2012.地質学雑誌,118捕遺,1-20.
砂村継夫,1975.地理学評論48-6,395-398.
Sunamura. T., 1994.Transactions,Japanese Geomorphological Union.15.253-272.
辻本英和,1985.地理学評論58,180-192.
高橋健一,1975.地理学評論,48,43-62.
植村善博,1981.古今書院,430–437.