日本地質学会第129年学術大会

講演情報

シンポジウム

S2.[シンポ]人新世における地質学:年代境界・物質境界研究のフロンティア(一般公募なし)

[2oral213-27] S2.[シンポ]人新世における地質学:年代境界・物質境界研究のフロンティア(一般公募なし)

2022年9月5日(月) 13:30 〜 17:45 口頭第2会場 (14号館101教室)

座長:磯崎 行雄(東京大学)、川幡 穂高(早稲田大学理工学術院,東京大学大気海洋研究所 )、黒柳 あずみ(東北大学)

15:15 〜 15:30

[S2-O-7] 地質学における「境界」研究:古くて新しい問題

*磯崎 行雄1 (1. 東京大学)

キーワード:地質学、物質境界、抽象概念、先端研究、視点

地質学は、地球に産する多様な岩石や地層の記載と分類を基礎として発展してきた。特に岩石・地層・化石などの物質研究を通して、さまざまな地質単元が識別され、異なる単元の間の境界が注視されてきた。とくに、断層、不整合、あるいはマグマの貫入面などの明瞭な物質境界についてその形成過程が考察され、基本的な地質学的概念が導かれた。これらは「相接する花崗岩と礫岩との境界」という単純な記載以上に、各々の物質境界に新たな科学的意義を付加された古典的例である。さらに、より広い時空間の理解のためにさまざまな地質学的な抽象概念が認識されるようになり、地質年代の区分や古生物地理区の識別のために境界が想定され、また造山運動という長時間に及ぶ地質過程についても空間的な境界や変動時階の時間的な境界が議論されるようになった。このように地球表層に産する様々な物質単元とそれらに由来する抽象概念について、地質学者は200年以上研究し続けてきたわけだが、常に「境界」の認識とその意義付けに異常な注目を注いできたと言えなくもない。 基本的に200年前から同じ場所にはほぼ同じ岩石・地層が分布するが、最近の半世紀には、ほぼ全ての岩石・地層がプレートテクトニクス的視点から記述、分類、そして説明されている。特に近年では目覚ましい技術革新の恩恵のもと、かつては観察不能だったミクロあるいはマクロの世界の詳細が詳らかになり、地質学者に認識できる時空間が大きく拡大した。「境界」認識における時間・空間分解能や記述精度の飛躍的な向上は目覚ましい。さらに、研究対象は地球以外にも及ぶようになり、月や隕石はもとより、火星や金星、さらに太陽系外の惑星もが地質学の研究対象とみなされるに至った。 このような大変化が起きている現在においても、「境界」研究が地質学において重要であることに変わりはない。特に、肉眼で見え、また指し示しせる具体的な「物質境界」のみならず、視覚では認識できない抽象概念においても「境界」の認識と定義が不可欠で、結局それらがこれまでの研究においても新たな探索の契機となってきたように思われる。地質学における境界認識・解釈は多くの研究者にとって、古くて新しい重要な問題であると言えるだろう。今回のシンポジウムでは、ご招待した多方面・多分野の俊英達によって最先端研究課題における「境界」問題についての話題が提供され、鋭い議論がなされることを期待する。 演者自身が関わった「境界」研究の対象を整理してみると、層状チャート中のコノドント化石帯境界に始まり、異なる付加体間(地体構造)の境界、古海洋の遠洋深海でのredox境界、古海洋での炭素固定モードの境界、古地磁気の逆転パタンの境界、堆積盆地の後背地変遷の境界、大量絶滅原因の階層性、東アジアの地体区分などなど、多様な事象について固有の難問に悩み続けてきた記憶がよみがえる。それでも、難問山積みの「境界」問題にこそ地質学の醍醐味があると考えたい。