日本地質学会第129年学術大会

講演情報

シンポジウム

S2.[シンポ]人新世における地質学:年代境界・物質境界研究のフロンティア(一般公募なし)

[2oral213-27] S2.[シンポ]人新世における地質学:年代境界・物質境界研究のフロンティア(一般公募なし)

2022年9月5日(月) 13:30 〜 17:45 口頭第2会場 (14号館101教室)

座長:磯崎 行雄(東京大学)、川幡 穂高(早稲田大学理工学術院,東京大学大気海洋研究所 )、黒柳 あずみ(東北大学)

16:45 〜 17:00

[S2-O-13] ペルム紀/三畳紀境界における地球外3He流入量の変動: 地球科学と惑星科学の境界領域開拓を目指して

*尾上 哲治1、高畑 直人2、曽田 勝仁3、佐野 有司3、磯崎 行雄2 (1. 九州大学、2. 東京大学、3. 高知大学)

キーワード:ペルム紀、三畳紀、ヘリウム同位体、層状チャート、惑星間塵

日本の付加体中に含まれる中古生代の層状チャートは,陸源砕屑物の到達しないパンサラサ海遠洋域で長期間堆積した記録を持つ.一般に層状チャートは,以下の6つの起源物質を構成要素とする混合物とみなすことができる.すなわち,(1)放散虫などの生物起源物質,(2)大陸起源物質,(3)火山性物質,(4)海水から無機的に沈殿した鉄-マンガン酸化物,(5)熱水起源物質,(6)宇宙塵などの地球外物質である.従来の研究では、化学組成分析や微化石年代をもとに上記(1)〜(5)の構成要素の寄与率や期間を求めることで,高い時間解像度での古海洋環境の復元が行われてきた.一方,上記(6)については,白金族元素濃度とオスミウム同位体分析による研究や,ヘリウム(He)同位体分析[1]による地球外物質流入に関する研究が近年始まっている.このうち,He同位体(3He, 4He)分析については,層状チャート堆積期間(ペルム紀〜ジュラ紀)の地球外物質流入量の変動を連続的に復元することが可能であり,これらの物質流入が地球環境に与えた影響や,太陽系の物質進化史を解読するといった新しい研究展開も期待できる.本発表では,このHe同位体分析について,美濃帯のペルム系〜下部三畳系層状チャートを対象とした最近の研究結果を中心に紹介する.
 研究対象は,美濃山地西部舟伏山地域の美濃帯ペルム系上部グアダルピアン(キャピタニアン)〜下部三畳系層状チャートである[1, 2].He同位体分析は,(1)バルク分析,(2)バルク試料の段階加熱分析,(3)酸処理試料を用いた段階加熱分析を行なった.
 検討の結果,バルク分析で得られた3He濃度は,ペルム紀キャピタニアンからチャンシンジアンにかけて増加する傾向がみられた.またペルム紀/三畳紀境界より上位層では,3He濃度は急激に低下した.He同位体比(3He/4He比)は,0.3〜0.8 Raの値をとり,全体としては検討セクションの下部から上部に向かって緩やかに低下する傾向がみられた.試料の段階加熱分析では,750-950℃の抽出温度で最も高い3He/4He比が得られた.さらにHF-HCl酸処理したものを段階加熱した結果,750-950℃の抽出温度で,地球外物質に特徴的な100 Raを超える3He/4He比も検出された[1]. 
 本研究の結果,試料中の3He/4He比が地殻岩石中でのHeの生成比(0.02 Ra)より高い値を示すこと,また地球外3Heのホスト鉱物の分解温度である750-950℃の抽出温度において,高い3He/4He比を示すことから,検討した試料に含まれる3Heは,主に地球外起源であることが示された.3He濃度および3He/4He比から地球外由来の3He濃度の変動を見積もると,キャピタニアンからチャンシンジアンにかけて増加傾向にあることが明らかになった.この地球外3He濃度の増加については,地球ヘの宇宙塵流入量増加のほかにも,堆積速度の低下によっても説明できるため,今後は美濃帯のペルム系層状チャートを通じた堆積速度との比較検討が必要である.一方,堆積速度が求められているチャンシンジアンの層状チャート[1]について地球外3Heフラックスを計算すると,ペルム紀末の約50万年間は,フラックスが前の時代に比べて約4倍増加したことが明らかになった.地球外物質流入量の増加期間には,ペルム紀放散虫化石種の絶滅が知られていることから,今後は地球外物質の大規模な流入が地球環境に与えた影響について,詳しく検討を進める必要がある.
引用文献 [1] Onoue, T. et al. 2019. PEPS, 6, 18; 高畑ほか,2019.地学雑誌, 128, 667-679.[2] Onoue, T. et al. 2021. Front. Earth Sci, 8, 685.