日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T3.[トピック]南大洋・南極氷床:地質学から解く南極と地球環境の過去・現在・未来

[2oral501-10] T3.[トピック]南大洋・南極氷床:地質学から解く南極と地球環境の過去・現在・未来

2022年9月5日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第5会場 (14号館402教室)

座長:石輪 健樹(国立極地研究所)、尾張 聡子(東京海洋大学)、菅沼 悠介(国立極地研究所)、香月 興太(島根大学)

10:45 〜 11:00

[T3-O-7] 第61次日本南極地域観測隊(JARE61)によって得られた海底堆積物コア間隙水の地球化学

*尾張 聡子1、板木 拓也2、菅沼 悠介3、石輪 健樹3 (1. 東京海洋大学、2. 産業技術総合研究所、3. 国立極地研究所)

キーワード:第61次日本南極地域観測隊、しらせ、大口径グラビティコアラ―、間隙水

間隙水中の塩化物イオンはイオン半径が大きいことから、微生物や堆積物の化学反応に利用されにくく、保存性成分として知られる(戸丸他、2009)。そのため、間隙水中の塩化物イオン濃度は、淡水流入の指標として利用することができる。例えばKuhn et al. (2017) では6年間冷蔵保管された、西南極のパインアイランド湾で回収された堆積物コア(約9m)から間隙水を抽出し、間隙水中の塩化物イオン濃度が深部に向かって低濃度化していることを明らかにした。通常、間隙水試料は、蒸発や酸化環境下における組成変化を防ぐため、船上に回収後24~48時間以内に抽出作業が行われる(例えばMcNeill et al., 2017; 戸丸他、2009)。Kuhn et al. (2017) で測定した間隙水はコア回収から6年が経過しており、蒸発が十分に起こりえるものの、最も低い塩化物イオン濃度は345 mMと、標準海水中の塩化物イオン濃度(=559 mM)よりも約0. 6倍低い値であった。このような塩化物イオンの低濃度異常は、過去に南極沿岸の間隙水環境が淡水や汽水環境にさらされていたことを示す証拠となる。 第 61次日本南極地域観測隊(JARE61)では、2019年12月~2020年2月にかけて、砕氷船「しらせ」を用いて初めて採泥観測が行われ、大口径グラビティコアラ―を用いて海底堆積物が採取された。本研究では、JARE61において、東南極のトッテン氷河沖で採取されたSt. 12B-LGC, St. 14C-LGC, St. 83-LGC, St. 99-LGCの4本、リュツホルム湾沖で採取されたSt. LH1a-LGCの1本、計5本の堆積物コアから抽出した間隙水を研究対象とした。 堆積物コアは「しらせ」の船上に回収された後、日本へ輸送され、半割された状態で産業技術総合研究所にて約二年間、冷蔵保管された。その後、高知コアセンターにコアを輸送後、2022年1月にサンプリングパーティが開催され、間隙水用に約5 mL程度の堆積物を58試料採取した。東京海洋大学にて、スクイーザーと遠心分離機を用いて間隙水の抽出を行った後、千葉大学にてイオンクロマトグラフィ(ICA-2000)で主要溶存成分(SO4, Cl, Na, Mg, Ca, K)の濃度を測定した。本研究ではコア回収から約2年後に抽出された間隙水の蒸発の影響や、鉛直方向での濃度変化と、その淡水の影響について紹介する。

引用文献
戸丸他 (2009) 地学雑誌, 118, 1, 111-127.
Kuhn et al. (2017) Nature Communications, 8, 1, 1-10.
McNeill et al. (2017) Proceedings of the International Ocean Discovery Program Volume 362