15:30 〜 15:45
[G5-O-9] ミャンマー中部テビンガン地域の中新統オボゴン層–イラワジ層間に見られる潮汐から河川への漸移
キーワード:中新世、オボゴン層、イラワジ層、潮汐–河川漸移、ミャンマー
ミャンマー中央部に南北に長く広がる中央 “第三系” 帯は北からチンドウィン盆地,ミンブー盆地,イラワジ・デルタに区分される (高井ほか, 2018).このうち中部に位置するミンブー盆地には漸新–中新統ペグー層群と中新–鮮新統イラワジ層が広く露出する (Naing Maw Than et al., 2017).ペグー層群は主として海成層からなり,ミンブー盆地においては下位よりピャウウェ層,チャウコック層,オボゴン層から構成される.その上位のイラワジ層は河川成層からなり,これまでペグー層群を不整合で覆うと考えられてきた.本研究では,ミンブー盆地南部,マグウェ南東のテビンガン地域において,エーヤワディ川の支流であるミェビャ川,クンオン川,マジガン川,タブッチョー川沿いに地質調査をおこない,オボゴン層とイラワジ層との関係について検討した.
調査は4つの川の中下流部から上流部に露出するオボゴン層上部からイラワジ層下部についておこなった.この地域の岩相は大きく8つに分類できる: すなわち,(1) 生物擾乱の発達するheterolithic層; (2) しばしば周囲の一般的な層理と斜交し,生物擾乱のほとんど見られないheterolithic層; (3) マッド・ドレイプを伴う斜交層理砂岩層; (4) マッド・ドレイプの見られない斜交層理砂岩層; (5) 平行に成層した細粒砂岩層; (6) 平行に成層したシルト~極細粒砂岩層; (7) 中礫岩層; (8) マッド・クラスト礫岩である.このうち (1) は調査セクションの下部にのみ見られ,しばしば二枚貝類・腹足類・フジツボ類・サメ類の歯などの化石を産する.(1)・(2)・(3) は一方向あるいは二方向の古流向を示す (大局的に西~南西向きと東~北東向き).(4) は (1)・(2)・(3) よりもやや粗粒で,古流向は一般に南~南西向きの一方向である.調査セクションの下部には (1)・(3) の岩相が卓越し,この層準は岩相から考えてオボゴン層である.その上位では (1) は見られなくなり,代わりに (2) がしばしば挟まれるようになる.下部からの変化は漸移的で,岩相上も構造上も不連続は見られない.セクション最上部では (1)・(2)・(3)・(6) は見られなくなり,(4) が卓越するようになる.最上部への変化もやはり漸移的である.最上部の層準はその岩相からイラワジ層であると考えられる.つまり,この地域のオボゴン層とイラワジ層との間に明瞭な不整合はなく,両者は中間的な岩相を示す漸移帯を挟んで連続的に堆積している.
岩相の組み合わせから,オボゴン層上部は潮汐低地・潮汐流路堆積物を主体とすると考えられる (Warr Warr Thidar Swam et al., 2019).オボゴン層–イラワジ層漸移帯は生物擾乱が弱いこと,海棲生物化石を産しないこと,inclined heterolithic stratificationを伴うことなどから,tidal–fluvial transition zoneの堆積物であると解釈できる (Van den Berg et al., 2007).イラワジ層は河川成層であろう.したがって,この地域のオボゴン層上部からイラワジ層下部は,潮汐低地から,潮汐の影響を受ける河川,そして河川へという海退に伴う一連の堆積環境の変化を記録していると考えらえる.調査地域北西方のインゼイ地域にもオボゴン層–イラワジ層漸移帯と思われる岩相が見られるため,ミンブー盆地南部においては広くオボゴン層からイラワジ層への漸移が見られるのかもしれない.
引用文献
Maw Than et al. (2017) Myanmar: Geology, Resources and Tectonics, 143–167; 高井ほか (2018) 化石, 103, 5–20; Van den Berg et al. (2007) Neth. J. Geosci., 86, 287–306; Warr Warr Thidar Swam et al. (2019) Proc. 3rd Myanmar Natl. Conf. Earth Sci., 421–434.
調査は4つの川の中下流部から上流部に露出するオボゴン層上部からイラワジ層下部についておこなった.この地域の岩相は大きく8つに分類できる: すなわち,(1) 生物擾乱の発達するheterolithic層; (2) しばしば周囲の一般的な層理と斜交し,生物擾乱のほとんど見られないheterolithic層; (3) マッド・ドレイプを伴う斜交層理砂岩層; (4) マッド・ドレイプの見られない斜交層理砂岩層; (5) 平行に成層した細粒砂岩層; (6) 平行に成層したシルト~極細粒砂岩層; (7) 中礫岩層; (8) マッド・クラスト礫岩である.このうち (1) は調査セクションの下部にのみ見られ,しばしば二枚貝類・腹足類・フジツボ類・サメ類の歯などの化石を産する.(1)・(2)・(3) は一方向あるいは二方向の古流向を示す (大局的に西~南西向きと東~北東向き).(4) は (1)・(2)・(3) よりもやや粗粒で,古流向は一般に南~南西向きの一方向である.調査セクションの下部には (1)・(3) の岩相が卓越し,この層準は岩相から考えてオボゴン層である.その上位では (1) は見られなくなり,代わりに (2) がしばしば挟まれるようになる.下部からの変化は漸移的で,岩相上も構造上も不連続は見られない.セクション最上部では (1)・(2)・(3)・(6) は見られなくなり,(4) が卓越するようになる.最上部への変化もやはり漸移的である.最上部の層準はその岩相からイラワジ層であると考えられる.つまり,この地域のオボゴン層とイラワジ層との間に明瞭な不整合はなく,両者は中間的な岩相を示す漸移帯を挟んで連続的に堆積している.
岩相の組み合わせから,オボゴン層上部は潮汐低地・潮汐流路堆積物を主体とすると考えられる (Warr Warr Thidar Swam et al., 2019).オボゴン層–イラワジ層漸移帯は生物擾乱が弱いこと,海棲生物化石を産しないこと,inclined heterolithic stratificationを伴うことなどから,tidal–fluvial transition zoneの堆積物であると解釈できる (Van den Berg et al., 2007).イラワジ層は河川成層であろう.したがって,この地域のオボゴン層上部からイラワジ層下部は,潮汐低地から,潮汐の影響を受ける河川,そして河川へという海退に伴う一連の堆積環境の変化を記録していると考えらえる.調査地域北西方のインゼイ地域にもオボゴン層–イラワジ層漸移帯と思われる岩相が見られるため,ミンブー盆地南部においては広くオボゴン層からイラワジ層への漸移が見られるのかもしれない.
引用文献
Maw Than et al. (2017) Myanmar: Geology, Resources and Tectonics, 143–167; 高井ほか (2018) 化石, 103, 5–20; Van den Berg et al. (2007) Neth. J. Geosci., 86, 287–306; Warr Warr Thidar Swam et al. (2019) Proc. 3rd Myanmar Natl. Conf. Earth Sci., 421–434.