08:45 〜 09:00
[T13-O-1] 地盤情報に基づく北海道の地盤平均S波速度分布の推定
【ハイライト講演】
世話人よりハイライトの紹介:既存のボーリングデータ等に基づいて北海道の地盤モデルを作成し,地震動の増幅率の算出等に使用される深さ30 mまでの平均S波速度(AVS30)を推定する取り組みについて紹介いただく.従来手法の微地形区分に基づく推定値と比較したところ,後背湿地や自然堤防で相対的に低く,扇状地などでは高くなった.これは実際の震度分布や液状化被害とも整合的である.※ハイライトとは
キーワード:平均S波速度、地盤データベース
【はじめに】
千島海溝周辺では,今後30年間以内においてM8.8以上の巨大地震の発生確率が7~40%と,地震に伴う強震動および津波リスクが極めて高い状態にある(地震調査研究推進本部,2017).海溝型の大規模地震では被害が甚大かつ広域にわたるため、事前復興の考え方のもと,国や地方公共団体、関連機関、住民などが様々な対策を事前にとることが必要である.そのためには,建築物や道路等インフラを載せる地盤について,地質学的なデータに基づき強震動および液状化等の地盤災害の稠密な予測を行うことが重要となる.
【浅部地盤データセットの構築】
強震動予測の基礎となる,地表から30m深までの地盤平均S波速度分布(AVS30)の設定にあたっては,地盤データの豊富な地域を除き,微地形区分が用いられることが多い.しかし特に平野部では,第四紀の顕著な地殻変動により地下構造が複雑になっている場合が多い.本研究では,北海道および各自治体等で実施された地盤ボーリングデータに基づき北海道の低地部を対象に地盤断面解析を行い,地下30mまでの地盤モデルを作成することとした.
検討に用いたデータは北海道内で行われた地盤ボーリング調査データのうち,低地で行われた掘削深度10m以上の32,461本である.これらについて,世界測地系による位置情報(緯度・経度・標高(T.P.:東京湾平均海面))の付与,異常な地質データの修正を行った.地盤断面解析には,産業技術総合研究所・防災科学技術研究所が開発,公開している「ボーリング柱状図解析システム」を用いた.断面測線間隔は4分の1地域メッシュ(緯度間隔7.5秒,経度間隔11.25秒:250mメッシュに相当)とし,同サイズのグリッド中央に設定した仮想柱状図に断面測線を投影して,グリッドごとの地質断面図とした.
北海道は札幌・釧路など都市部を除き,関東地方など本州の大都市圏と比べ低地における市街地面積率が小さく,地盤ボーリング調査地点密度も低い傾向がある.そのため,岡崎(1960)など水井戸柱状図,田村ほか(2009)によるサロベツ原野の電気探査結果など物理探査資料も参照し,近傍の地盤ボーリング柱状図を投影・対比することにより解析精度の向上を図った.また,十勝平野断層帯など活断層の近傍では中~上部更新統以新の地層も断層,撓曲および傾動により変形を受けている可能性があるため,廣瀬ほか(2005)など北海道内の活断層調査結果も考慮した.これらの解析結果に基づき地盤モデルを作成,AVS30を算出した.地盤ボーリング資料や物理探査結果等が乏しい地域については,若松・松岡(2020)および松岡ほか(2005)の手法で,微地形と先第三系・第三系の山地・丘陵からの距離に基づきAVS30を算出した.
【解析結果】
AVS30値は,沖積層が厚く発達する石狩平野では後背湿地で15~20%,自然堤防で5~10%など,微地形区分による見積もりに比べ低く,豊平川扇状地周辺や由仁-安平低地など地下浅部に厚く砂礫層が発達する地域では,10~50%前後高く見積もられる傾向があった.これらはたとえば平成23年東北地方太平洋沖地震など北海道周辺での地震で観測された震度分布や地盤液状化被害の傾向とも整合的である.
【引用文献】
廣瀬 亘・大津 直・田近 淳・高見雅三・田村 慎・石丸 聡・垣原康之・野呂田晋(2005)北海道活断層図 No.5 十勝平野断層帯 活断層図とその解説.北海道,136p.
地震調査研究推進本部(2017)千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版),130p.
松岡昌志・若松加寿江・藤本一雄・翠川三郎(2005)日本全国地形・地盤分類メッシュマップを利用した地盤の平均 S 波速度分布の推定.土木学会論文集,No.794/I-72,239-251.
岡崎由夫(1960)釧路平原とのその地形発達史.地理学評論,33,462-473.
田村慎・大津直・岡孝雄・秋田藤夫・若浜 洋・酒井利彰・石島洋二(2009)北海道北部,サロベツ原野における浅部地下構造.北海道大学地球物理学研究報告,72,51-77.
若松加寿江・松岡昌志(2020)地形・地盤分類250mメッシュマップの更新.日本地震工学会誌,40,24-27.
千島海溝周辺では,今後30年間以内においてM8.8以上の巨大地震の発生確率が7~40%と,地震に伴う強震動および津波リスクが極めて高い状態にある(地震調査研究推進本部,2017).海溝型の大規模地震では被害が甚大かつ広域にわたるため、事前復興の考え方のもと,国や地方公共団体、関連機関、住民などが様々な対策を事前にとることが必要である.そのためには,建築物や道路等インフラを載せる地盤について,地質学的なデータに基づき強震動および液状化等の地盤災害の稠密な予測を行うことが重要となる.
【浅部地盤データセットの構築】
強震動予測の基礎となる,地表から30m深までの地盤平均S波速度分布(AVS30)の設定にあたっては,地盤データの豊富な地域を除き,微地形区分が用いられることが多い.しかし特に平野部では,第四紀の顕著な地殻変動により地下構造が複雑になっている場合が多い.本研究では,北海道および各自治体等で実施された地盤ボーリングデータに基づき北海道の低地部を対象に地盤断面解析を行い,地下30mまでの地盤モデルを作成することとした.
検討に用いたデータは北海道内で行われた地盤ボーリング調査データのうち,低地で行われた掘削深度10m以上の32,461本である.これらについて,世界測地系による位置情報(緯度・経度・標高(T.P.:東京湾平均海面))の付与,異常な地質データの修正を行った.地盤断面解析には,産業技術総合研究所・防災科学技術研究所が開発,公開している「ボーリング柱状図解析システム」を用いた.断面測線間隔は4分の1地域メッシュ(緯度間隔7.5秒,経度間隔11.25秒:250mメッシュに相当)とし,同サイズのグリッド中央に設定した仮想柱状図に断面測線を投影して,グリッドごとの地質断面図とした.
北海道は札幌・釧路など都市部を除き,関東地方など本州の大都市圏と比べ低地における市街地面積率が小さく,地盤ボーリング調査地点密度も低い傾向がある.そのため,岡崎(1960)など水井戸柱状図,田村ほか(2009)によるサロベツ原野の電気探査結果など物理探査資料も参照し,近傍の地盤ボーリング柱状図を投影・対比することにより解析精度の向上を図った.また,十勝平野断層帯など活断層の近傍では中~上部更新統以新の地層も断層,撓曲および傾動により変形を受けている可能性があるため,廣瀬ほか(2005)など北海道内の活断層調査結果も考慮した.これらの解析結果に基づき地盤モデルを作成,AVS30を算出した.地盤ボーリング資料や物理探査結果等が乏しい地域については,若松・松岡(2020)および松岡ほか(2005)の手法で,微地形と先第三系・第三系の山地・丘陵からの距離に基づきAVS30を算出した.
【解析結果】
AVS30値は,沖積層が厚く発達する石狩平野では後背湿地で15~20%,自然堤防で5~10%など,微地形区分による見積もりに比べ低く,豊平川扇状地周辺や由仁-安平低地など地下浅部に厚く砂礫層が発達する地域では,10~50%前後高く見積もられる傾向があった.これらはたとえば平成23年東北地方太平洋沖地震など北海道周辺での地震で観測された震度分布や地盤液状化被害の傾向とも整合的である.
【引用文献】
廣瀬 亘・大津 直・田近 淳・高見雅三・田村 慎・石丸 聡・垣原康之・野呂田晋(2005)北海道活断層図 No.5 十勝平野断層帯 活断層図とその解説.北海道,136p.
地震調査研究推進本部(2017)千島海溝沿いの地震活動の長期評価(第三版),130p.
松岡昌志・若松加寿江・藤本一雄・翠川三郎(2005)日本全国地形・地盤分類メッシュマップを利用した地盤の平均 S 波速度分布の推定.土木学会論文集,No.794/I-72,239-251.
岡崎由夫(1960)釧路平原とのその地形発達史.地理学評論,33,462-473.
田村慎・大津直・岡孝雄・秋田藤夫・若浜 洋・酒井利彰・石島洋二(2009)北海道北部,サロベツ原野における浅部地下構造.北海道大学地球物理学研究報告,72,51-77.
若松加寿江・松岡昌志(2020)地形・地盤分類250mメッシュマップの更新.日本地震工学会誌,40,24-27.