日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G1-8.ジェネラル サブセッション応用地質・地質災害・技術

[3oral420-24] G1-8.ジェネラル サブセッション応用地質・地質災害・技術

2022年9月6日(火) 15:45 〜 17:00 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:西山 賢一(徳島大学大学院社会産業理工学研究部)、加瀬 善洋(北海道立総合研究機構)

15:45 〜 16:00

[G8-O-1] 道東地域におけるテフラ層すべりの成因の再検討と空中写真SfM画像から判読した地すべり地形の意義

【ハイライト講演】

*加瀬 善洋1、小安 浩理1、仁科 健二1、石丸 聡1、輿水 健一1 (1. 北海道立総合研究機構)

世話人よりハイライトの紹介:2018年に発生した胆振東部地震では火山噴出物を含む地質が広範囲に崩壊し,過去最大級の斜面災害が発生しました.その災害は特徴的な風化した火山灰層をすべり層として発生したことが指摘されています.著者らの研究は北海道東部の摩周テフラ分布域においても同様の風化火山灰層があることを発見し,その特性を分析しました.さらには,高解像度の地形データなどを用いて複数の地すべりを標津断層帯周辺で発見しました.防災科学的にもその成果は注目されます.※ハイライトとは

キーワード:地震地すべり、テフラ層すべり、標津断層帯、千島海溝、摩周テフラ、ハロイサイト、地中レーダー

【はじめに】
 北海道中標津町北武佐では,摩周l降下火砕堆積物(Ma-l; 14 ka)が層構造を保った状態で含まれる地すべり移動体(北武佐地すべり)が発見され,内部構造の特徴等から地震起源と推定されている(越谷ほか,2012).しかし,道東での降下火砕堆積物のスライド(テフラ層すべり;石丸ほか,2020)の報告例は上記の1例に限られるため,地震地すべりの規模や発生年代の詳細は不明である.また北武佐地すべりの成因や特徴についても,平成30年北海道胆振東部地震で得られたテフラ層すべりに関する知見をもとに再検討する必要がある.著者らは,北武佐地すべりの成因を再検討するとともに,道東に分布する地震起源の可能性がある地すべりを対象に,地形・地質調査を行っている.ここでは,これまでに得られた調査結果を概説する.
【研究手法】
 北武佐地すべりでは,地すべり範囲外の崖および移動体末端の縦断面の露頭が確認できたことから,非変動域の土層の層序および移動体の内部構造の記載を行った.次に移動体の内部構造を把握するためGPR探査を行った.さらに,すべり面とその上下層準を対象に,XRDおよび土質試験を行った.
 一方,地すべりの広域的な分布を把握するため,地形判読を行った.2万5千分の1地形図や10mメッシュ標高データではテフラ層すべりの地形特徴である層厚が薄い地すべりの判読は困難であった.そこで空中写真(1978年撮影)を合成処理および点群処理し,SfM解析による数値表層モデルを作成して判読可能であることを確認した後,GIS上で地すべり地形を抽出した.解析範囲は摩周テフラの層厚分布を考慮し,中標津町養老牛~羅臼町幌萌の山麓とした.標津町古多糠~薫別では産総研(2019)のLiDARデータを併用した.
【結果】
 北武佐地すべりの非変動域の露頭では,Ma-lとそれを覆う摩周テフラを挟在する黒色土(層厚3 m程度)が認められた.Ma-lの最下部には,粘土化した白色風化部(層厚5 cm)が発達する.一方,移動体末端の露頭では,層序を保ったMa-lと白色風化部が黒色土(旧地表面)を覆うことから,白色風化部をすべり面層準と認定した.地形データから算出した等価摩擦係数(地すべりの高さ/同長さ)は0.1と小さい.GPRの結果,反射面は縦断・横断面ともに連続性が良く,移動体の中央部では正断層系,末端では逆断層系の構造が局所的に認められた.XRDの結果,白色風化部はその上下層準よりもハロイサイトを多く含むことが確認された.土質試験の結果は,白色風化部の強度がその上下層準よりも低いことを示す.Ma-lの含水率は200%程度と高く,指で軽石を潰すと水が噴出する.
 SfM解析による地形判読の結果,幅数10 m,長さ100~270 m程度の地すべり地形を複数抽出した.地すべりは分布密度が低く局所に偏在するような傾向は認められないが,解析範囲全域で認められ,傾斜30°以下に分布する.
【考察】
 北武佐地すべりは,(1)白色風化部がハロイサイトを多く含み,その強度が低いこと,(2)Ma-lが高含水率であること,(3)露頭およびGPRの結果より,移動体の大部分が成層して定置していると推定されること,(4)等価摩擦係数が小さいこと等から総合的に判断すると,従来の報告の地震起源のテフラ層すべりとする解釈が支持される.Ma-lの高ハロイサイト・高含水率・降灰年代は,胆振東部地震のテフラ層すべりの主なすべり面層準であるTa-d(9 ka)の特徴と類似することが特筆される.GPRで確認された正断層系の反射面はホルスト-グラーベン構造,逆断層系はデュープレックス構造(田近ほか,2020)に対応すると解釈される.
 一方,これまでテフラ層すべりの可能性がある地すべりの分布は高精度の地形データが無かったため不明であったが,空中写真SfM画像により判読可能であることがわかった.地すべりの分布は低密度であるが,標津断層帯に沿う広い範囲で認められる一方,大半のテフラは斜面に残存していることになる.なお,薫別の地すべりを対象に予察的な掘削調査を行った結果,Ma-lがすべり面層準であることを確認した.これらの結果は,本地域が胆振東部地震発生前の厚真地域と同様のセッティングにあり,テフラ層すべりの発生ポテンシャルが高いことを示唆する.仮に判読した地すべりが地震起源であった場合,その要因は標津断層帯あるいは千島海溝型地震に求めることができる.判読した地すべりがテフラ層すべりであるかどうかや,地すべりの発生年代・同時性の検討により,誘因となったイベントの特定・再来周期に関する知見が得られることが期待される.
【文献】産総研,2019,活断層.石丸ほか,2020,地形.越谷ほか,2012,北海道の地すべり.田近ほか,2020,地すべり学会誌.