日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

G1-8.ジェネラル サブセッション応用地質・地質災害・技術

[7poster41-44] G1-8.ジェネラル サブセッション応用地質・地質災害・技術

2022年9月10日(土) 10:30 〜 12:30 ポスター会場 (ポスター会場)

[G8-P-1] (エントリー)秋田県横手市の古海底地すべり及び活断層の断層破砕物質の地球化学的性質

*林 宏樹1、林 茉莉花1、田中 宗一郎2 (1. 原子力規制庁長官官房技術基盤グループ、2. 新潟大理)


キーワード:古海底地すべり、活断層、断層ガウジ

はじめに
 上載地層法による断層の活動性評価が適用できない場合の断層活動性評価手法として,近年,断層破砕物質の化学組成を用いた手法が提案されている(Niwa et al., 2019; 立石ほか, 2021).また,成因評価の難しい断層の例として新第三紀など地質時代に発生した海底地すべり(古海底地すべり)があるが,このすべり面の破砕物質を対象とした地球化学的研究はほとんど行われていない.本研究では先行研究で古海底地すべりと活断層が報告されている秋田県横手市の露頭を対象に,断層の成因評価の観点から古海底地すべり面と活断層の違いに関する知見を蓄積するため,XRFを用いてそれらの断層破砕物質の化学的な性状の違いを確認した.なお,本研究は原子力規制庁と新潟大学との共同研究「断層の成因評価に関する基礎的研究」の一部として実施したものである.

調査地域
 秋田県横手市には層状珪質泥岩と凝灰岩の互層からなる上部中新統~鮮新統の山内層及び相野々層が分布し,それぞれ秋田-山形堆積盆の女川層及び船川層に対比される.東方の真昼山地から盆地内に向けて緩い褶曲構造,過褶曲や異常堆積構造,泥岩岩塊を取り込んだ凝灰岩が見られることから,これらの構造は凝灰岩形成時に西向きにすべった長さ5~10km程度の海底地すべりに起因するものと考えられている(阿部ほか, 1994, 2005).
 本研究の対象露頭は古海底地すべりに起因すると見られる変形構造や破砕帯を伴う横手市南部の3露頭と,横手盆地東縁断層帯のうち金沢断層の副断層として細矢ほか (2018)で報告された横手市北部の活断層露頭である.横手市南部の露頭はいずれも珪質泥岩と凝灰岩の互層,横手市北部の露頭は凝灰岩と段丘堆積物からなる.凝灰岩は珪質で一般に白色~黄灰色を呈し,一部の層は暗色又は赤褐色に変質している.本研究において,横手市南部の露頭中の凝灰岩から9.4±0.4Ma~10.0±0.6MaのジルコンFT年代が得られた.

結果と考察
 XRF全岩化学組成分析には新潟大学理学部のRigaku製RIX3000を用いた.本地域の凝灰岩には鏡下で多量の変質鉱物が確認され,全岩化学組成もNa2O及びK2Oが共に1.5wt%未満と低い値を示すことから,主としてNaやKの溶脱を伴う変質作用が示唆される.古海底地すべり面と活断層のガウジではほとんどの元素について系統的な違いは認められなかったが,活断層のガウジ試料でMgO又はFe2O3*が突出して高くK2Oが比較的低い傾向を示すことから,K2O-(Fe2O3*+MgO)の図にプロットすると活断層のガウジはFe2O3*+MgO>8atm%かつK2O<0.15atm%の高苦鉄質・ごく低K領域に,古海底地すべり面のガウジは原岩が珪質泥岩か凝灰岩かを問わずFe2O3*+MgO<7atm%かつK2O<0.7atm%の低苦鉄質・低K領域に集中する結果となった.この原因としては古海底地すべり面と活断層で深部への連続性が異なる点が考えられ,特に今回調査した活断層露頭から東方に数km離れた地点には玄武岩質溶岩・火砕岩が露出していること,本断層がNS~NE-SW走向の中角東傾斜であることから,本断層又は本断層の主断層である金沢断層が地下深部で玄武岩質岩に接している可能性がある.一方,横手市南部の露頭付近に苦鉄質岩は見られないことから,MgやFeの供給源と供給経路(水みち)のいずれか又は両方が両者の化学的差異の原因となった可能性がある.

参考文献
Niwa et al., Eng. Geol., 260, 105235, 2019; 立石ほか, 応用地質, 62, 2, 104-112, 2021; 阿部ほか, 応用地質, 35, 5, 15-26, 1994; 阿部ほか, 地すべり学会誌, 41, 5, 447-457, 2005; 細矢ほか, 地質学会要旨, R22-O-18, 2018.