[G9-P-2] (エントリー)熊本県五木地域に分布するオレネキアン期(前期三畳紀後期)砥石型珪質粘土岩より産出したコノドント自然集合体に基づくNeostrachanognathus属摂餌器官復元の再検討
キーワード:コノドント、自然集合体、前期三畳紀、珪質粘土岩、熊本県
コノドント化石は生層序の指標として役立てられてきたが,一方で生物学的側面については未だ不明瞭な点が多い.それは体化石が保存されにくいことに加え,形態が異なる複数個のエレメントによって構成される摂餌器官が化石化過程で分離してしまうことに起因している.そのためエレメントが棲息時の配列を保った産状とみなされる自然集合体が,系統分類学や古生態学的検討の材料として重要視されてきた (上松・鎌田, 2018).自然集合体標本の産出はきわめて少ないものの,日本においてはジュラ紀付加体を構成するペルム紀–三畳紀の遠洋深海成粘土岩 (いわゆる黒色有機質粘土岩,砥石型珪質粘土岩) からの産出が報告されており (例えばKoike et al., 2004; Agematsu et al., 2008; Takahashi et al., 2019),コノドントの生物学的研究に貢献している.演者らは熊本県五木地域に分布する砥石型珪質粘土岩から前期三畳紀オレネキアン期後期 (スパシアン亜期) のコノドント自然集合体を見出し,これについて記載学的検討を行ったので報告する.
五木地域には秩父帯ジュラ紀付加体を構成する石灰岩,チャート,砥石型珪質粘土岩,緑色岩,砕屑岩類が分布している (五木村総合学術調査団, 1987).川辺川に注ぐ五木小川支流の折立セクションでは砥石型珪質粘土岩が露出しており,オレネキアン期後期 (スパシアン亜期) を示すTriassospathodus homeri, Ts. symmetricus, “Neohindeodella benderi”などのコノドント化石が良好な保存状態で産出する.本セクションにおいて,Agematsu et al. (2008) はNeostrachanognathus tahoensis Koike, 1998の自然集合体標本の産出を報告し,摂餌器官について復元を試みている.
本研究の検討材料である自然集合体標本は,Agematsu et al. (2008) による標本と同層準の砥石型珪質粘土岩から産出した.標本は層理面上でわずかに埋没しているため,SPring-8においてシンクロトロン放射光X線CTを撮影し,得られた断面画像からコノドントエレメントを抽出したのち,3Dモデルを作成してエレメントの形態を観察した.集合体は9個のbipennate ramiformエレメント (単一のS0, 1対ずつのS1, S2, S3, S4),2個のbreviform digyrate ramiformエレメント (1対のMあるいはP3),4個のconiformエレメント (1対ずつのP1, P2) から構成されている.P1エレメントは前方縁が弓状,後方縁がほぼ垂直を呈する主歯と,短い小歯を前側方に持つconiformを呈することから,Neostrachanognathus属に分類される.
Agematsu et al. (2008) による復元では,N. tahoensisはS0,M相当のエレメントを欠き,1対のP3エレメントを有する14個のエレメントから構成される器官とされている.このような構成は,三畳紀に優勢なgondolellid器官 (15個のエレメントからなる器官) とは異なっており,さらにPエレメントがconiformを呈することから,Neostrachanognathus属の系統関係は不明とされてきた (Chen et al., 2016).しかしながら本研究により,このコノドントがS0エレメントを有していることが明らかとなり,Neostrachanognathus属の摂餌器官がgondolellid器官に対比される可能性が高くなった.
【参考文献】
Agematsu et al. (2008) Palaeontology, 51, 1201–1211.; 上松・鎌田 (2018) 地質学雑誌, 124, 951–965.; Chen et al. (2016) Papers in Palaeontology, 2, 235–263.; 五木村総合学術調査団 (1987) 五木村学術調査 自然編, Ⅱ 地質, 121–245.; Koike (1998) Paleontological Reserch, 2, 120–129.; Koike et al. (2004) Paleontological Reserch, 8, 241–253.; Takahashi et al. (2019) Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 524, 212–229.
五木地域には秩父帯ジュラ紀付加体を構成する石灰岩,チャート,砥石型珪質粘土岩,緑色岩,砕屑岩類が分布している (五木村総合学術調査団, 1987).川辺川に注ぐ五木小川支流の折立セクションでは砥石型珪質粘土岩が露出しており,オレネキアン期後期 (スパシアン亜期) を示すTriassospathodus homeri, Ts. symmetricus, “Neohindeodella benderi”などのコノドント化石が良好な保存状態で産出する.本セクションにおいて,Agematsu et al. (2008) はNeostrachanognathus tahoensis Koike, 1998の自然集合体標本の産出を報告し,摂餌器官について復元を試みている.
本研究の検討材料である自然集合体標本は,Agematsu et al. (2008) による標本と同層準の砥石型珪質粘土岩から産出した.標本は層理面上でわずかに埋没しているため,SPring-8においてシンクロトロン放射光X線CTを撮影し,得られた断面画像からコノドントエレメントを抽出したのち,3Dモデルを作成してエレメントの形態を観察した.集合体は9個のbipennate ramiformエレメント (単一のS0, 1対ずつのS1, S2, S3, S4),2個のbreviform digyrate ramiformエレメント (1対のMあるいはP3),4個のconiformエレメント (1対ずつのP1, P2) から構成されている.P1エレメントは前方縁が弓状,後方縁がほぼ垂直を呈する主歯と,短い小歯を前側方に持つconiformを呈することから,Neostrachanognathus属に分類される.
Agematsu et al. (2008) による復元では,N. tahoensisはS0,M相当のエレメントを欠き,1対のP3エレメントを有する14個のエレメントから構成される器官とされている.このような構成は,三畳紀に優勢なgondolellid器官 (15個のエレメントからなる器官) とは異なっており,さらにPエレメントがconiformを呈することから,Neostrachanognathus属の系統関係は不明とされてきた (Chen et al., 2016).しかしながら本研究により,このコノドントがS0エレメントを有していることが明らかとなり,Neostrachanognathus属の摂餌器官がgondolellid器官に対比される可能性が高くなった.
【参考文献】
Agematsu et al. (2008) Palaeontology, 51, 1201–1211.; 上松・鎌田 (2018) 地質学雑誌, 124, 951–965.; Chen et al. (2016) Papers in Palaeontology, 2, 235–263.; 五木村総合学術調査団 (1987) 五木村学術調査 自然編, Ⅱ 地質, 121–245.; Koike (1998) Paleontological Reserch, 2, 120–129.; Koike et al. (2004) Paleontological Reserch, 8, 241–253.; Takahashi et al. (2019) Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 524, 212–229.