[G9-P-5] 東京都西部の多摩川水系に分布する鮮新-更新統上総層群から産出した海水魚類化石
キーワード:魚類化石、上総層群、硬骨魚類、更新世、多摩川
東京都西部を流れる多摩川水系には鮮新-更新統上総層群が分布している.上総層群は,多摩丘陵西部では下位から寺田層,大矢部層,平山層,小山田層,連光寺層,稲城層,出店層で構成される(植木ほか,2013).加住丘陵では加住層と小宮層からなり寺田層‐平山層と同時異層の関係にある(植木ほか,2013).これらの地層からは軟体動物化石や植物化石などが豊富に産出することが知られており(松川(編),2016;福嶋,2019など),近年ではアキシマクジラEschrichtius akishimaensisなどの海生哺乳類化石や板鰓類化石が報告されている(Kimura et al., 2018;髙桒ほか2021など).
硬骨魚類化石についてはSakamoto et al. (1998) が日野市の平山層からヒラメParalichthys olivaceusの下顎骨を報告した.近年では,福嶋(2019)が立川市の小山田層から棘鰭類を,尾﨑ほか(2021)が日野市の連光寺層からニシン目魚類とボラ属魚類を報告している. 演者らは日野市の連光寺層と八王子市の大矢部層で調査を行い,新たに多数の硬骨魚類化石を採取した.本講演では,先行研究および演者らが採取した標本を含め,東京都西部の上総層群から産出した硬骨魚類化石の概要を報告する.
調査の結果,大矢部層からニシン目とカレイ目魚類と考えられる化石を採取した.これまでに大矢部層からの魚類化石の産出報告はなく,本研究が初めてである. 連光寺層からは,新たにニシン目カタクチイワシ科魚類と考えられる頭部骨格を含む化石を採取した. 以上をまとめると,東京都西部の多摩川水系に分布する上総層群では大矢部層からニシン目とカレイ目が,平山層からヒラメが,連光寺層からボラ属,ニシン目,およびカタクチイワシ科魚類が産出する.これらの地層の堆積環境は沿岸域-汽水域の範囲内であると推定されている(松川(編),2016など).そのため,上述の硬骨魚類化石が産出することは現生種の生態を考慮しても矛盾はない.また,テフロクロノロジーの知見も蓄積されており,詳細な年代も明らかになりつつある(鈴木ほか,2016など).したがって,東京都西部の上総層群から産出する硬骨魚類化石は,更新世の関東沿岸域の海水魚類を理解するうえで重要である.ただし,現在のところ種まで同定されている標本は,平山層から産出したヒラメのみで,多くの標本は種まで同定されていない.そのため,現生種との比較や追加標本の採取も含め,今後も引き続き調査を行う.
引用文献
福嶋 徹,2019,小山田層産の棘鰭上目魚類化石.p. 116–118. In福嶋 徹,2019, 多摩川産軟体動物化石を利用した環境教育実験と市民参加型・ 調べ学習による「第四紀学」の古環境復元の研究.2018年公益財団法人東急財団助成事業,1. 研究成果報告書,公益財団法人東急財団, 東京.141p.
Kimura, T., Hasegawa, Y. and Kohno, N., 2018. A new species of the genus Eschrichtius (Cetacea: Mysticeti) from the Early Pleistocene of Japan. Paleontological Research, 22, 1–19.
松川 正樹(編),2016,多摩川中流域に分布する上総層群の残された問題の解決、総括的研究と地質野外実習教材の改訂.公益財団法人とうきゅう環境財団,120p.
尾﨑 薫・福嶋 徹・長岡 徹・宮田真也・樽 創,2021, 東京都日野市上総層群連光寺層から産出した魚類化石群.日本古生物学会 2021 年年会講演予稿集,p.14.
Sakamoto, K., Uyeno, T., and Kase, T., 1998. A Dentary of the Flatfish Paralichthys olivaceus (Pisces: Pleuronectiformes) from the Pleistocene Hirayama Formation, Tokyo, Japan. Bulletin of the National Science Museum Series C, 24, 93–97.
鈴木毅彦・白井正明・福嶋徹,2016,関東平野南部における上総層群のテフロクロノロジー. 地質学雑誌,122,343–356.
髙桒祐司・木村敏之・長谷川善和,2021,上総層群小宮層から産出したサメ類化石~アキシマクジラとの共産標本.群馬県立自然史博物館研究報告,(25),49–58.
植木岳雪・原 英俊・尾崎正紀,2013,八王子地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),産業技術総合研究所地質調査総合センター,137p.
硬骨魚類化石についてはSakamoto et al. (1998) が日野市の平山層からヒラメParalichthys olivaceusの下顎骨を報告した.近年では,福嶋(2019)が立川市の小山田層から棘鰭類を,尾﨑ほか(2021)が日野市の連光寺層からニシン目魚類とボラ属魚類を報告している. 演者らは日野市の連光寺層と八王子市の大矢部層で調査を行い,新たに多数の硬骨魚類化石を採取した.本講演では,先行研究および演者らが採取した標本を含め,東京都西部の上総層群から産出した硬骨魚類化石の概要を報告する.
調査の結果,大矢部層からニシン目とカレイ目魚類と考えられる化石を採取した.これまでに大矢部層からの魚類化石の産出報告はなく,本研究が初めてである. 連光寺層からは,新たにニシン目カタクチイワシ科魚類と考えられる頭部骨格を含む化石を採取した. 以上をまとめると,東京都西部の多摩川水系に分布する上総層群では大矢部層からニシン目とカレイ目が,平山層からヒラメが,連光寺層からボラ属,ニシン目,およびカタクチイワシ科魚類が産出する.これらの地層の堆積環境は沿岸域-汽水域の範囲内であると推定されている(松川(編),2016など).そのため,上述の硬骨魚類化石が産出することは現生種の生態を考慮しても矛盾はない.また,テフロクロノロジーの知見も蓄積されており,詳細な年代も明らかになりつつある(鈴木ほか,2016など).したがって,東京都西部の上総層群から産出する硬骨魚類化石は,更新世の関東沿岸域の海水魚類を理解するうえで重要である.ただし,現在のところ種まで同定されている標本は,平山層から産出したヒラメのみで,多くの標本は種まで同定されていない.そのため,現生種との比較や追加標本の採取も含め,今後も引き続き調査を行う.
引用文献
福嶋 徹,2019,小山田層産の棘鰭上目魚類化石.p. 116–118. In福嶋 徹,2019, 多摩川産軟体動物化石を利用した環境教育実験と市民参加型・ 調べ学習による「第四紀学」の古環境復元の研究.2018年公益財団法人東急財団助成事業,1. 研究成果報告書,公益財団法人東急財団, 東京.141p.
Kimura, T., Hasegawa, Y. and Kohno, N., 2018. A new species of the genus Eschrichtius (Cetacea: Mysticeti) from the Early Pleistocene of Japan. Paleontological Research, 22, 1–19.
松川 正樹(編),2016,多摩川中流域に分布する上総層群の残された問題の解決、総括的研究と地質野外実習教材の改訂.公益財団法人とうきゅう環境財団,120p.
尾﨑 薫・福嶋 徹・長岡 徹・宮田真也・樽 創,2021, 東京都日野市上総層群連光寺層から産出した魚類化石群.日本古生物学会 2021 年年会講演予稿集,p.14.
Sakamoto, K., Uyeno, T., and Kase, T., 1998. A Dentary of the Flatfish Paralichthys olivaceus (Pisces: Pleuronectiformes) from the Pleistocene Hirayama Formation, Tokyo, Japan. Bulletin of the National Science Museum Series C, 24, 93–97.
鈴木毅彦・白井正明・福嶋徹,2016,関東平野南部における上総層群のテフロクロノロジー. 地質学雑誌,122,343–356.
髙桒祐司・木村敏之・長谷川善和,2021,上総層群小宮層から産出したサメ類化石~アキシマクジラとの共産標本.群馬県立自然史博物館研究報告,(25),49–58.
植木岳雪・原 英俊・尾崎正紀,2013,八王子地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),産業技術総合研究所地質調査総合センター,137p.