日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T1[トピック]岩石・鉱物の変形と反応

[1oral101-10] T1[トピック]岩石・鉱物の変形と反応

2023年9月17日(日) 09:00 〜 12:15 口頭第1会場 (4共11:吉田南4号館)

座長:岡﨑 啓史(広島大学)、宇野 正起(東北大学)、向吉 秀樹(島根大学)

10:00 〜 10:15

[T1-O-4] (エントリー)海洋プレートモホ面付近の含水延性剪断帯における鉱物と組織の多様性

★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*【ECS】夏目 樹1、纐纈 佑衣1、道林 克禎1、岡本 敦2 (1. 名古屋大学大学院環境学研究科(岩鉱)、2. 東北大学大学院環境科学研究科)

キーワード:海洋プレート、地殻-マントル境界、モホ面、含水延性剪断帯、水-岩石反応、微細構造、オマーンオフィオライト

海洋プレートは中央海嶺で形成後、海溝からマントル深部に沈み込むまでに様々な断層運動を経験する。その過程で断層沿いに浸透した海水が、海洋プレートと水-岩石反応を起こすことで、海洋プレートのレオロジーは大きな影響を受ける。特に、岩相間で元素移動が起こり得る地殻-マントル境界での水-岩石反応によって生成される含水鉱物のレオロジーへの影響については、試料採取が困難なこともあって研究が進んでいない。そこで本研究では、陸上に露出した海洋プレート断片であるオマーンオフィオライトモホ遷移帯(ダナイトとハンレイ岩が貫入により混ざり合った領域)に発達した含水鉱物を多量に含む延性剪断帯に着目した(Michibayashi and Oohara, 2013)。本研究では、この含水延性剪断帯の微細構造発達過程を基にして、海洋プレートの地殻-マントル境界における水-岩石反応を考察した。
延性剪断帯の岩石試料の研磨薄片について、偏光顕微鏡・反射顕微鏡観察、顕微レーザーラマン分光分析、SEM-EDS元素マッピング、SEM-EBSD鉱物相マッピングを用いて鉱物同定と微細構造観察を行なった結果、岩石の微細組織がOl sub-zone, Amp-Pl sub-zone, Amp sub-zone, Chl sub-zone, Cpx sub-zone に分けられた。さらにこれら微細組織中の含水鉱物の形成温度およびモホ遷移帯でのダナイトとハンレイ岩の混合の影響を推定するために、縦軸に温度、横軸にダナイトとハンレイ岩を端成分とした全岩化学組成に対するシュードセクションを作成した。なお計算は、H2Oに飽和したCaO-FeO-MgO-Al2O3-SiO2-H2O系で、一般的な海洋地殻の厚さに相当する圧力(200 MPa)を仮定して行なった。
シュードセクションの結果から、原岩の化学組成に依らずAmp sub-zoneは約800℃以下、Chl sub-zoneとCpx sub-zoneは約650℃以下で形成されることが示唆された。先行研究(Michibayashi & Oohara, 2013)で報告された組織の類似性をふまえてOl sub-zoneはダナイト由来の組織で、ハンレイ岩由来のAmp-Pl sub-zoneも同じく900℃~800℃程度で変形作用を受けた。その後,角閃石の充填組織より、Amp sub-zoneはOl sub-zone の形成後に変形を伴いながら形成された。さらに,緑泥石の充填組織およびChl sub-zoneへの歪の局所化を示唆する組織より、変形を受けつつ約650℃で Chl sub-zone と Cpx sub-zone が形成され、Chl sub-zone へ歪が局所化した。
以上の結果より、海洋プレートのモホ面(地殻-マントル境界)に発達した延性剪断帯では、温度低下を伴う水-岩石反応によって含水鉱物を含む様々な岩石組織が形成され、歪がより変形し易い含水鉱物に局所化すると考察される。また,本研究で示された水-岩石反応は,オマーンオフィオライトが形成されたオブダクションだけでなく、海洋プレートに発達する種々の断層の深部領域でも同様に起きている可能性がある。
【引用文献】
Michibayashi and Oohara, 2013, Earth Planet. Sci. Lett., 377, 299-310.