日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G-1.ジェネラル サブセッション構造・海洋・堆積・地域地質

[1oral601-11] G-1.ジェネラル サブセッション構造・海洋・堆積・地域地質

2023年9月17日(日) 09:00 〜 12:15 口頭第6会場 (共北37:吉田南総合館北棟)

座長:松崎 賢史(東京大学)、佐藤 大介(産業技術総合研究所)、野田 篤(産業技術総合研究所)、常盤 哲也(信州大学)

12:00 〜 12:15

[G1-O-11] 紀伊半島北山川流域の四万十帯に発達するリニアメント群の構造特性

*木村 克己1、金子 誠1、菊地 輝行2 (1. 深田地質研究所、2. 公立諏訪東京理科大学)

キーワード:四万十帯、リニアメント、直交節理系、北山川、紀伊半島

紀伊山地北山川流域の基盤岩類は主に中期中新世の珪長質火成作用で熱変成を受けた四万十帯の後期白亜紀付加体堆積岩から構成される.これらの岩石は,西方の非変成付加体と同様の岩相と東北東~東西走向で北傾斜の地質構造を示すが,熱変成と珪化作用により,硬化・均質化しているため,層理面や付加過程で形成された各種の構造面が癒着し,地表で弱面として顕在化しない傾向がある.地形的にも山頂の斜面やV字谷斜面には岩盤が露出する急斜面が発達し,付加体地域で地層の傾斜方向に緩傾斜を呈する非対称な“ケスタ”地形が極めて乏しい.
 同流域の急崖斜面において,5mDEMの傾斜量図の解読を主に,衛星画像・空中写真を補助的に利用して,3000条を越すリニアメントを抽出した.リニアメントは長さ1-8㎞で,急崖斜面では1㎞で10-40条におよぶ.リニアメントは,直交するNE-SW~NNE-SSWおよびNW-SE~NNW-SSE系が普遍的な分布を示し,N-SやE-W系が偏在するという分布特性を示す.また緩斜面域を中心に,ENE-WSW方位のリニアメントが7~20㎞長で,2-5㎞間隔で発達している.
 現地調査では谷や道路切割の露頭観察に加えて,北山川のダム下流の幅広い露頭が出現する谷底4地点においてはドローンにより面的な写真撮影を実施した.これらの現地調査と写真による断裂系の開析の結果,①直交する2組のリニアメントは直交節理(orthogonal joints)であり,一部は横ずれ断層(faulted joint)に転化していること,②ENE-WSW方位のリニアメントは右横ずれ卓越の断層であること,③形成の順は,直交節理,偏在するN-S・E-W節理,ENE-WSW断層であることが判明した.中期中新世の珪長質火成岩の熱変成によるホルンフェルスに発生した断裂系であることから,それ以降に形成されたと考えられる.
 これらの断裂系は尾根・河川の方位を強く制御しており,2011年に十津川流域で多数発生した深層崩壊地の輪郭やその斜面を横断する位置にもその存在が認められる.地質構造的な制約条件として,従来は,付加体の覆瓦構造や脆弱な泥質岩の分布に注意が払われていたが,中期中新世以後に形成された断裂系についても,斜面崩壊の予測や対策において重要な構造的素因として考慮すべき対象であると考えられる.