日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

T1[トピック]岩石・鉱物の変形と反応

[1poster01-16] T1[トピック]岩石・鉱物の変形と反応

2023年9月17日(日) 13:30 〜 15:00 T1_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T1-P-10] 高間隙な凝灰角礫岩の脆性−延性変形遷移に伴うせん断帯内部の歪み分布の変遷

*上原 真一1、溝口 一生1,2、谷口 友規3 (1. 東邦大学理学部、2. 電力中央研究所、3. (株)セレス)

キーワード:脆性−延性変形遷移、岩石変形室内実験、断層の透水性、デジタル画像相関、凝灰角礫岩

背景と目的:岩石中に発達するせん断帯の透水特性,すなわち透水性の大きさや異方性などの性質は,せん断帯内部の歪みの空間分布の特性(歪みの大きさと符号(膨張性か圧縮性か),歪み集中域の幅など)に依存する.この歪みの空間分布は,せん断変形した深さ(あるいは有効封圧条件)によって異なる.一般的に,比較的浅い条件では,岩石は局所脆性変形(脆性変形)し,比較的深い条件では,延性分散変形(延性変形)することが知られている.脆性変形時や延性変形時におけるせん断帯内部の歪みの空間分布については,これまで詳細に調べられている.それに比べて,脆性−延性変形遷移に伴うせん断帯内部の歪み空間分布の変遷については,まだよくわかっていないことが多い.本研究では,封圧下での軸変形実験を行い,実験後試料の非弾性歪み分布を定量的に解析することで,脆性−延性変形遷移に伴うせん断帯内部の歪み空間分布を評価した.

実験方法:実験試料には,能登半島の中新世穴水累層から採取した凝灰角礫岩を,直径約40 mm,長さ約80 mmの円柱形に成形したものを用いた.この岩石は,最大2.3 mmの粒子(斜長石,輝石など)と,より細粒な基質(斜長石,輝石,ガラス質など)から構成される.間隙率は19.5から26.1%,密度は2030 ± 80 kg/m3である.変形実験は,一定の軸速度条件で行った.岩石は水で飽和させ,間隙水圧は大気圧とした.封圧は1 MPaから100 MPaまでの値に設定し,変形実験中は一定に保った.

歪み空間分布の解析方法:実験前及び後の試料について,マイクロフォーカスX線CT(TESCO TXS-CT450/160)で,CT像を撮影した(解像度:0.06 mm).試料スケールのせん断帯に垂直かつ試料の軸を通る平面で断面イメージを作成し,実験前・後の画像から,デジタル画像相関(digital image correlation, DIC)技術により非弾性変形を評価し,その結果から,変形実験による非弾性歪みの空間分布を計算した.

結果と考察:今回使用した岩石試料は,封圧が10 MPa周辺で脆性−延性変形遷移が観察された.DIC解析の結果,脆性領域では,非弾性歪みの大きさが比較的小さいことから,試料の軸に対して30から45°の角度を成す試料スケール(マクロスケール)の膨張性の亀裂沿いに変形が集中することがわかった.脆性−延性変形遷移では,幅が約20 mmで,軸に対して45°の角度を成す歪み集中帯が観測された.この歪み集中帯は,歪み値が5%以上の圧縮性であった.延性領域においてもせん断帯内部の歪みは圧縮を示すが,封圧が増加するにしたがってせん断帯の幅が広くなり,歪み値が小さくなる傾向が見られた.非弾性歪みが比較的目立って観察されたケース(封圧が10 MPa以上)については,歪み値の頻度分布(ヒストグラム)やバリオグラムといった統計的な解析を試みた.その結果,歪み集中の度合いやその方向性について定量的な評価をする上で有用な情報が得られたことから,今回のような解析にこれらの統計的な手法を用いることが有効である可能性が示された. 今回の結果より,高間隙率の凝灰角礫岩においては,脆性−延性変形遷移ではせん断帯は圧縮性であり,その透水性は母岩よりも低く,またせん断帯に垂直方向の透水性は平行方向のものに対して小さいという異方性を示すことが予想される.本研究の成果によって,日本列島に広く分布する同様の地質におけるせん断帯の透水性を評価する上で有益な条件を与えることが期待される.