日本地質学会第130年学術大会

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セッションポスター発表

T1[トピック]岩石・鉱物の変形と反応

[1poster01-16] T1[トピック]岩石・鉱物の変形と反応

2023年9月17日(日) 13:30 〜 15:00 T1_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T1-P-11] (エントリー)蛇紋岩の炭酸塩化におけるブルーサイトの選択的溶解の役割と反応誘起破壊

★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★

*【ECS】五十嵐 大輝1、宇野 正起1、岡本 敦1 (1. 東北大学)

キーワード:蛇紋岩、炭酸塩化、反応誘起破壊

蛇紋岩の原位置での炭酸塩化は、多くの大気中の二酸化炭素を長期的かつ安全に固定化する手段として期待されている。しかしながら岩石の溶解には低pHが、炭酸塩の析出には高pHが適しているというジレンマを抱えているほか、析出した炭酸塩によって流体の流路が塞がることが確認されており、岩石の効率的な炭酸塩化には未だ多くの障壁が存在する。天然の岩石の観察から、岩石の炭酸塩化においては、反応の体積膨張により反応誘起破壊を生じさせ、流体の流路を確保し続けることが必要とされている(e.g., Plumper et al. 2012, Kelemen&Hirth 2012)。模擬物質としてペリクレースの水和反応を用いた実験では反応誘起破壊を起こすことに成功しているが(e.g., Uno et al. 2022)、天然の岩石でこれを生じさせた例はない。 本研究では、天然の岩石で反応誘起破壊を伴う効率的な炭酸塩化を実現する条件を探るため、中国北東部で採集されたブルーサイトに富む蛇紋岩のコア試料(径6mm, 高さ5mm程度)を二酸化炭素飽和水(CO2圧:10MPa, pH : 7.35)、炭酸水素ナトリウム水溶液中(蒸気圧下, pH : 9.51)で、90, 150, 200℃に熱し、1週間反応させた。出発物質のコア試料内は大きく蛇紋石領域、ブルーサイト領域に二分され、蛇紋石領域は細粒な蛇紋石-ブルーサイト混合物で構成されており、ブルーサイト-蛇紋石脈が横切っている。本研究ではこの蛇紋岩領域の炭酸塩化に注目し、そのプロセスについて考察した。 実験後の生成物は反応条件ごとに異なり、蛇紋石領域では炭酸水素ナトリウム水溶液-200℃の場合において、最も多くマグネサイトが析出した。二酸化炭素飽和水では、温度の上昇とともにブルーサイト脈の溶解幅が減少し、母岩の蛇紋石の反応量、マグネサイトの析出量は増加した。炭酸水素ナトリウム水溶液では、温度の上昇に伴ってブルーサイト脈の溶解幅、母岩の蛇紋石の反応量、マグネサイトの析出量は増加した。以上の観察から、高pHで炭酸塩が析出しやすい炭酸水素ナトリウム水溶液においてはブルーサイトの溶解が律速しており、温度の上昇とともにブルーサイトが溶解しやすくなったことで炭酸塩化が進んだことが考えられる。一方、炭酸塩が析出しにくい二酸化炭素飽和水では、温度の上昇とともにCO2の溶解度が下がり、pHが低下したことで炭酸塩が析出するようになったことが考えられる。 また、二酸化炭素飽和水-150℃,炭酸水素ナトリウム水溶液-150℃,200℃の資料中の蛇紋石領域のみにおいて、明瞭な反応誘起破壊が確認された。最もマグネサイトの析出が見られた炭酸水素ナトリウム水溶液-200℃の試料に着目すると、試料内部に斜め方向の亀裂、試料外周に表面に垂直な亀裂が生成していた(図1a)。試料中の反応した部分には、元の蛇紋石-ブルーサイト混合物の周りに多孔質蛇紋石が生成しており、さらに外側にメッシュ状にマグネサイト-蛇紋石混合物が生成していた(図1b)。これらのことから、炭酸水素ナトリウム水溶液-200℃の試料の反応メカニズムを以下のように考察した(図1c, 1d)。①試料表面の蛇紋石-ブルーサイト混合物からブルーサイトが選択的に溶解することで局所的にMgイオンを供給、pHを上昇させるとともに、多孔質蛇紋石を残存させる。②ブルーサイトの溶解によって生じた脈内や蛇紋石中の間隙にマグネサイトが析出することで試料外周部分の体積を膨張させる。③外周部分の膨張により内部に引張亀裂が発生する。④亀裂から流体が浸透し、亀裂表面で①-②同様の反応・膨張が起こる。⑤内部の膨張により外周部分に引張亀裂が発生。このように、蛇紋岩における連続的な反応誘起破壊プロセスには、ブルーサイトの選択的反応による局所的な反応・膨張が重要な役割を担っている可能性がある。