日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

[2oral201-10] T6[トピック]堆積地質学の最新研究【EDI】

2023年9月18日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第2会場 (4共21:吉田南4号館)

座長:白石 史人(広島大学)、足立 奈津子(大阪公立大学)

09:00 〜 09:15

[T6-O-1] (エントリー)和歌山県由良地域に分布する鳥巣石灰岩(上部ジュラ系)で見られる被覆性微生物類Lithocodiumが古太平洋での礁形成に果たした役割

*【ECS】船場 大輝1、江﨑 洋一1、足立 奈津子1 (1. 大阪公立大学)

キーワード:後期ジュラ紀、古太平洋、礁、鳥巣石灰岩、被覆性微生物類

後期ジュラ紀の礁はヨーロッパに分布するテチス海と日本に分布する古太平洋で広く形成された.従来,礁の形成に果たす被覆性微生物類(以下,微生物類)の役割に注目し,テチス海の礁が重点的に研究されてきた (Leinfelder et al., 1993など).しかし,後期ジュラ紀に特徴的な礁の形成様式や海洋環境を理解するためには,両海域からの情報が必要である.微生物類の中でもLithocodiumが多産し (Shiraishi & Kano, 2004など),量的に重要な役割を果たす.Lithocodiumは,異なる成長段階を示すアオサ藻綱石灰質緑藻類と解釈され (Schlagintweit et al., 2010),光の環境条件に応じて成長段階が変化する (Schlagintweit et al., 2012).本発表では,古太平洋で形成された鳥巣石灰岩の中でも大型造礁骨格生物(以下,大型生物)が豊富な和歌山県由良地域の石灰岩を対象とし,多産するLithocodiumが礁の構築に果たした役割を検討する.
 由良地域からは,層孔虫や六射サンゴ,ケーテテスなどの大型生物が豊富に産出する.微生物類として,LithocodiumThaumatoporellaGirvanellaOrtonellaBacinellaTubiphytesが認められる.その中でLithocodiumが最も豊富である.Lithocodium には成長順に次の3つの成長段階が認められる.(1)大型生物の成長末端部に形成された空洞を泡状構造が充填する段階,(2)内部の袋状構造からフィラメント構造が上方に複数分岐する段階,(3)(2)の内部の袋状構造から不規則な泡状構造が側方へ広がるように成長し,それに伴ってそこから上方に分岐するフィラメント構造が減少する段階.中でも(2)の成長段階が多く認められ,この成長段階のLithocodiumは,主に層状ケーテテス及び塊状六射サンゴの成長末端部を被覆して上方に成長するが,さらにそれらと累積する場合やそれらの側面部を被覆する場合もある.(3)の成長段階のLithocodiumは,塊状六射サンゴの側面部を被覆する場合に認められる.(1)の成長段階のLithocodiumは,ケーテテス及び六射サンゴの成長末端部や側面部に形成された空洞に認められ,それらが充填された表面を(2)及び(3)の成長段階のLithocodiumが被覆する場合が認められる.ThaumatoporellaGirvanellaなどの他の微生物類も大型生物の側面部や内部を被覆する場合が多い.
 微生物類の中でも(2)の成長段階のLithocodiumが特に卓越する理由として,主に上方へと選択的に成長し大型生物の固着基盤を提供できたためと考えられる.加えて,大型生物と累積しながら上方へと選択的に成長し,大型生物の側面部や内部よりも活発に繁茂できたためと考えられる.一方,(1)及び(3)の成長段階のLithocodiumや他の微生物類は,大型生物間に形成された微小な空間や大型生物の骨格内の空間を被覆する場合が多く,単に礁の枠組み構造を二次的に強固にする役割を果たしたに過ぎない.卓越する(2)の成長段階のLithocodiumは,大型生物の固着基盤を提供し,礁を上方へと発達させる役割を果たした.

[引用文献]
・Leinfelder et al., 1993. Facies, 29, 195-229.
・Schlagintweit et al., 2010. Facies, 56(4), 509-547.
・Schlagintweit et al., 2012. Facies, 58, 37-55.
・Shiraishi & Kano, 2004. Facies, 50(2), 217-227.