日本地質学会第130年学術大会

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セッション口頭発表

T13[トピック]沈み込み帯・陸上付加体

[2oral401-10] T13[トピック]沈み込み帯・陸上付加体

2023年9月18日(月) 09:00 〜 12:00 口頭第4会場 (共北25:吉田南総合館北棟)

座長:内田 泰蔵(高知大学)、田代 圭吾(京都大学)

10:00 〜 10:15

[T13-O-5] 有馬型塩水のストロンチウム安定同位体組成(δ88/86Sr):前弧スラブ流体生成時の同位体分別

*可児 智美1、三澤 啓司2、森川 徳敏3、風早 康平3、楠原 文武4、米田  成一5、寺門 靖高6 (1. 熊本大学、2. 極地研究所、3. 産業技術総合研究所、4. 電力中央研究所、5. 国立科学博物館、6. 神戸大学)

キーワード:スラブ流体、ストロンチウム同位体、沈み込み、水

有馬型塩水は,非火山地域で湧出するにもかかわらず,マグマ的酸素―水素同位体比やヘリウム同位体比などをもつ[e.g.,1,2]ことから,スラブ流体がその起源だと考えられる[e.g., 3,4,5,6]. 兵庫県有馬温泉で湧出する有馬型塩水のストロンチウム同位体87Sr/86Sr比は(0.70853)で,基盤岩である六甲花崗岩/有馬層群流紋岩類の87Sr/86Sr比とほぼ同じ値だが,ストロンチウム安定同位体組成(δ88/86Sr = 0.122–0.153 ‰)は,基盤岩と明らかに異なる軽い特徴をもつことが新たに示されたことで,有馬温泉水のストロンチウム同位体はスラブ流体の特徴を保持しており,浅部過程(地殻レベル)での岩石-水相互作用の影響は小さいと考えられる[7].中央構造線沿いに湧出する有馬型塩水である長野県の鹿塩塩水も有馬塩水と同様に軽いδ88/86Sr値をもつことも,両地域の塩水の起源と生成過程の共通性を示唆する[7].有馬塩水の特徴的な軽いδ88/86Sr値は,フィリピン海(PHS)スラブの海洋堆積物と海洋地殻からの流体生成時の同位体分別によると説明された.δ88/86Sr値は類似しているが,鹿塩塩水の87Sr/86Sr比は有馬塩水の87Sr/86Sr比よりわずかに高い.それは,堆積物構成比の違い(地域による違い,あるいは,太平洋プレート由来の流体の関与)の反映である可能性がある.
[1] Matsubaya et al., 1973. Geochemical Journal, 7(3), 123– 151. https://doi.org/10.2343/geochemj.7.123
[2] Masuda et al., 1986. Geochimica et Cosmochimica Acta, 50(1), 19– 28. https://doi.org/10.1016/0016-7037(86)90044-x
[3] Kazahaya et al., 2014. Journal of Japanese Association of Hydrological Sciences, 44(1), 3– 16. (in Japanese). https://doi.org/10.4145/jahs.44.3
[4] Kusuda et al., 2014. Earth Planets and Space, 66(1), 119. https://doi.org/10.1186/1880-5981-66-119
[5] Nakamura et al., 2014. Gondwana Research, 70, 36– 49. https://doi.org/10.1016/j.gr.2019.01.007
[6] Morikawa et al., 2016. Geochimica et Cosmochimica Acta, 182, 173– 196. https://doi.org/10.1016/j.gca.2016.03.017
[7] Kani et al., 2023. Geophysical Research Letters, 50, e2022GL100309.