日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T16[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域【EDI】

[2oral501-11] T16[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域【EDI】

2023年9月18日(月) 09:00 〜 12:00 口頭第5会場 (共北27:吉田南総合館北棟)

座長:野々垣 進(産総研 地質調査総合センター)、中澤 努(産業技術総合研究所地質調査総合センター)

11:45 〜 12:00

[T16-O-11] 地質地盤情報の活用と法整備-国民の安全・安心のために-

*栗本 史雄1 (1. 地質地盤情報の活用と法整備を考える会)

キーワード:地質地盤情報、ボーリングデータ、データベース、共有化、法整備

地質地盤情報は、防災・減災、国土開発、インフラ整備、産業振興、資源開発、環境保全を支える国土の基本情報であり、国民生活にとって欠くことができない情報である。特にボーリングデータは地下を直接掘削して取得する貴重な情報であると言える。近年、人口が密集する都市部や産業拠点の埋立地などにおいて地質地盤に起因する液状化・強震動・陥没などの災害や事故が発生している。地質地盤情報は住民の安全や地域の発展、インフラ整備の観点から必要不可欠のものである。
「地質地盤情報の活用と法整備を考える会」(以下、本会と記す)は2016年4月の設立以来、地質地盤情報の活用によって国民の安全・安心を図ることを目標にして社会の仕組み作りや法整備の提案を行っている(https://www.geo-houseibi.jp)。本講演では地質地盤情報に関する現状を概観し、地質地盤情報の重要性と法整備の必要性を述べる。
地質地盤に起因する災害や事故をなくし安全を確保するためには、地下の地質や地盤に関するすべての情報を活用する必要がある。ボーリングデータを例にとると、国や地方自治体等が所有する公的データ、建築申請などに利用される民間データ、研究のために取得したデータなどがあり、わが国には膨大な情報が蓄積されている。データの多くはデータベースとして整備されているが、地方自治体ではそれぞれの事情もありデータベース化の進捗には差がある。一方、個人や企業等が掘削して取得した民間データは体系的に整備されておらず、廃棄や消失の恐れがある。また、ボーリングデータそのものには著作権はないが、民間データには所有権がある。そのため、国や地方自治体が民間データを強制的に収集することはできず、許可なく公開することもできない。現状ではすべてのボーリングデータが整備されて、適切に管理され、十分に活用されているとは言い難い。
ボーリングデータをはじめとして地下の地質地盤に関するすべての情報を活用するには、地質地盤情報が国民の資産であり共有財産であるという認識を持つことが肝要である。つまり、地質地盤情報を収集しデータベース化し、国民が地質地盤情報を適切に活用できる仕組みを整えることは国や地方公共団体等の責務であり、学会や研究機関等も連携してこの責務を負うべきである。一方、国民がこれらのデータを国や地方公共団体等に要求し、安全・安心な生活を享受することは国民の権利であるといえる。
地質地盤情報を活用した安全・安心な社会の実現には、すべての地質地盤情報のデータベースが必要であり、いわゆる「地質地盤情報の電子図書館」の構築が喫緊の課題である。公的データ・民間データを問わず、すべての地質地盤情報をアーカイブするためには、これまでのデータ整備をさらに促進する法的な指針が必須であり、法整備を行うことが有効な方策であると考える。
本会は、これまで講演やワークショップ等を通じて地質地盤情報の重要性を主張するとともに、関係部署等に対して法整備を働きかけてきた。また、地質地盤情報の活用拡大のため不動産に関する検討も行ってきた。この間の重要な社会の動向を挙げると、2017年の国交省審議会答申で「国は法制化も含めて具体的な措置を早急に講じるとともに、地盤情報の収集・共有化を図り、必要な情報について広く公開することなどが急務である」と明記されたことである。この答申を受けて設立された(一財)国土地盤情報センターは、地盤情報を国土形成の基盤となる国土情報と位置づけ、地盤情報の管理運営を行っている。現状では国、地方自治体、事業体、研究機関などが地質地盤情報の整備と活用を進めているが、すべての地質地盤情報をアーカイブして、それらの情報を共有できる状況には至っておらず、今後さらに進捗を図る必要がある。
本会は引き続き、地質地盤情報の活用とその推進のための法整備を目標に、①地質地盤情報利活用の事例と有効性の検証、②データアーカイブの動向把握、③HPによる広報活動、④学会等での公表およびワークショップ開催、⑥関係部署等への法整備の働きかけ、などの活動を継続していく。