日本地質学会第130年学術大会

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T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

[2poster01-25] T2[トピック]変成岩とテクトニクス【EDI】

2023年9月18日(月) 13:30 〜 15:00 T2_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[T2-P-12] 三波川帯の変成アルカリ玄武岩岩脈:イザナギプレート上の小規模プレート内火成活動

*遠藤 俊祐1、崎 海斗1、八木 公史2 (1. 島根大学、2. 蒜山地質年代学研究所)

キーワード:三波川帯、アルカリ玄武岩、白亜紀

はじめに
太平洋北西域の海洋プレート沈み込みにより形成された中生代付加体の海洋プレート層序を復元すると,白亜紀中頃を境に海洋プレートの特徴が急変したことが示唆され,関連して様々なモデルが提案されている(e.g. Ueda and Miyashita 2005; Boschman et al. 2021).ジュラ紀~前期白亜紀の付加体中には石炭紀~トリアス紀石灰岩を伴う海洋島玄武岩(OIB)が多産し,多数の海山を載せた古い海洋プレートがこれら付加体の形成に関与した.一方,後期白亜紀(100Ma以降)の四万十付加体や三波川変成岩では,苦鉄質岩は主に中央海嶺玄武岩(MORB)起源であり,イザナギプレートの海洋地殻に相当する.四万十付加体や三波川変成岩にホットスポット海山の痕跡(OIB+石灰岩)はほとんど知られていない.代わりに,四国の三波川変成岩に小規模なアルカリ玄武岩を原岩とするものが存在し,プチスポットのような小規模プレート内火成活動が想定された(Endo et al. 2018).これら変成アルカリ玄武岩の産状,地球化学的特徴およびK-Ar年代を報告する.

地質概要と産状
四国三波川帯の主要部を占める白滝ユニットは側方連続性の良いMORB起源の苦鉄質片岩を伴うことにより特徴づけられる.しかし,白滝ユニットの下部(低変成度域)ではまだMORBの大規模付加は始まっておらず,泥質・砂質片岩を主とし,稀に小規模な変成アルカリ玄武岩が認められる(Endo et al. 2018).このような関係を高知県大豊地域(緑泥石帯低温部:300℃)と愛媛県西条市の桜樹屈曲域(緑泥石帯高温部:400℃)の二地域で観察した.大豊地域の変成アルカリ玄武岩は幅3 m以下のシート状岩体として泥質片岩卓越部に産するが,泥質片岩との境界に必ず薄い珪質片岩が介在し,シート状岩体には細粒周縁相も認められる.桜樹屈曲域の変成アルカリ玄武岩はMORB起源の苦鉄質片岩層の直下の薄い珪質片岩中に幅1-4 mの褶曲したシート状岩体として産する.両地域の変成アルカリ玄武岩の産状から,遠洋性堆積物に貫入したシルが原岩と推定される.

岩石記載
大豊地域の変成アルカリ玄武岩は褐色自形のケルスート閃石と少量のチタン輝石(Tiに富むディオプサイド),針状アパタイトを残留鉱物として含む.ケルスート閃石のリムやブーディンネックにはアクチノ閃石が生じている.桜樹屈曲域では,変成アルカリ玄武岩中の残留火成鉱物は僅かであるが,二タイプに分類できる.タイプ1はケルスート閃石仮像とみられる粗粒のアルカリ角閃石(フェロ藍閃石)を特徴的に含む.また大部分が変成アルカリ輝石に置換されたチタン輝石も少量含まれる.タイプ2は著量のチタン輝石仮像(変成アルカリ輝石)やアパタイト,炭酸塩を含む.また残留変質鉱物として濃緑~褐色の多色性が顕著なTiに富むエジリンやNa-Nb-Zrに富むチタナイトがみられる.

地球化学的特徴
大豊地域および桜樹屈曲域のタイプ1とタイプ2の変成アルカリ玄武岩の微量元素パターンは,不適合元素に富むアルカリOIBの特徴を示す.また,プチスポットのアルカリ玄武岩(Hirano and Machida 2022)と同様に,Zr-HfやTiの負異常,高Zr/Hf比といったカーボナタイトのフィンガープリントが認められ,不適合元素に富むタイプ2でより顕著である.CO2に富むマントルを融解源とし,部分融解度の上昇とともにタイプ2からタイプ1に変化したと考えられる.

K-Ar年代
大豊地域の二地点の試料から残留鉱物のケルスート閃石を分離し,K-Ar年代測定を行った.二試料の年代値(108.6±2.4 Ma,110.1±2.4 Ma)は誤差の範囲で一致した.K-Ar系の角閃石の閉鎖温度(500~700℃:例えば,兼岡,1998)は同地域の変成温度より有意に高いため,得られた年代値は原岩年代と解釈できる.また,これらの年代値は白滝ユニットのMORBの形成年代(約150 Ma: Nozaki et al.2013)と白滝ユニット下部の砂質片岩の砕屑性ジルコン年代の最若集団(約95 Ma:Endo et al. 2018)の中間であり,イザナギプレート上のプレート内火成活動として矛盾しない.

文献
Boschman et al. (2021) Tectonics 40, e2019TC005673;Endo et al. (2018) IAR 27, e12261; Hirano and Machida (2022) Commun. Earth Environ. 3, 110; 兼岡(1998)年代測定概論,315p;Nozaki et al. (2013) Sci. Rep. 3, 1889; Ueda and Miyashita (2005) IAR 14, 582-598