130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

Presentation information

Session Oral

T10[Topic Session]Culture geology【EDI】

[3oral601-10] T10[Topic Session]Culture geology

Tue. Sep 19, 2023 8:45 AM - 12:00 PM oral-06 (37-North Wing, Yoshida-South Campus Academic Center Bldg.)

Chiar:naoki takahashi(Natural History Museum and Institute,Chiba), masaya SAKAMOTO, Yukiko OHTOMO

10:30 AM - 10:45 AM

[T10-O-17] Gather a multi-layered view of the local area: From the practice of ‘Hadano walking touring the town'

*Kiminori TAGUCHI1 (1. Kanagawa Prefectural Museum of Natural History)

Keywords:discover local resources, linking local resources, regional context, deepening of the local resource element

文化地質学の視点の理解には、それぞれの地域での地形・地質と人間生活の営みを重層的に解釈していくことが重要と考える。

 自然科学(地形や地質)からの視点、人文科学(歴史学や社会科学)からの視点など、多面的な視点をもって地元の土地を重層的に捉えることで、そこには何かいくつもの文脈ともいえる関係性が見えてくるはずだと考えるからである。人々が生活する土地の基盤には、地球の仕組みの下に地質と地形が存在し、その土地に適応すべく生活してきた人の歴史、街の歴史がある。ふだんは地学巡検で地質や地形にフォーカスしてきたが、ここで多面的な視点、参加者の複数の視点でその土地を見直すことを試みたい。

 以上をふまえて、発表者は、科研費研究「岩石・石材を素材とした歴史系および自然系博物館による地域学習プログラムの協働開発」において、神奈川県立歴史博物館の丹治雄一学芸員と歴史学と地質学の「協働研究」によって自然史と歴史を一体的に捉えた新たな地域の歴史像が地域理解の促進につながる、と考え新しい学習プログラムの試行をすすめている。
 これまでに神奈川県内各地で地質学と歴史学を融合させた講座や野外観察会を実施した。とくに、秦野市本町地区(旧曾屋村)をフィールドにして、2021年に講座『秦野まち歩き:ジオでみつめてみよう』を、2023年に秦野街歩き『水の力が育んだ秦野〜関東大震災から100年、台地の街並みをめぐるジオ散策〜』の2回を実践に至っている。
 1回目の講座実践では「地域の事物・現象を重層的に捉えさせ、深い学びを促すにはどのような手立てがあるのか」という問いのもと、「領域をまたぐ多様なキーワード」と「地域文脈の発見」という2つのステップが有効であることがささやかながら見えてきた(田口, 2022)。さらに2回目の実践により、いわゆる地域資源の活用についていくつかの段階が見えてきた。
すなわち、
<レベル1>地域資源の発見と顕在化
<レベル2>地域資源のグループ化とストーリー
<レベル3>領域を越えた地域資源の組み合わせによる有意味的深化
である。
 本発表では、この地域資源を重層的に捉え活用していく段階的な活用について触れてみたい。
 いわゆる「街歩き」がブームである。発表者もコロナ禍をきっかけに神奈川県秦野市の一地区を歩くことをスタートさせた。たとえば、坂道の存在を足で感じ地図で確かめることで、見落としていた微地形に意識が働くようになった。段丘面と段丘崖を意識しながら擁壁や石垣、坂道、階段の存在を見ることで言わば地域資源の要素が顕在化する。さらに、そこに地形を巧みに拓いてきた人々の生活が見えてくることで、たとえば古い道が地形と密接していることが有意味可を伴って顕在化してくる。水の豊かな秦野でも、台地の地形と地質は、水の不自由を生み出した。その不自由さが、先人たちの巧みな水利を築き、巧みな農業を培っている。変動帯日本は自然災害の多い土地である。秦野も火山噴火や大地震の災害からの復興を重ねてきた。その復興が街づくりや産業の発展につながっている。
 秦野市の一地区である本町地区(旧曾屋地区)を歩くことからスタートし学習プログラムの試行として2回の講座を実施した結果、地域資源の発見と活用レベルに関する段階があることが見えてきた。
 各地域の地域資源のベースには、地域の地形や地質の上に人々の生活が成り立っているという文脈がある。その地域に存在する地域資源の要素を顕在化し、多面的・多角的に捉え考察し、地域文脈を見出していく作業について、いわゆる「まちあるき」が大きな可能性をもつことを示唆している。これからは従来の講座、観察会の学習プログラムに加えて、領域を越えた視点、地域の視点を融合する方法を考えていく必要がある。

文献
田口公則・山下浩之・丹治雄一(2022)講座「秦野まち歩き:ジオでみつめてみよう」の実践―まち歩きで取り上げる「観る要素」の取捨選択―.神奈川県博物館協会会報,93,20-25.

 本実践及び発表には、JSPS科研費 JP18K01111を使用した。