日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッションポスター発表

G. ジェネラルセッション

[3poster38-47] G. ジェネラルセッション

2023年9月19日(火) 13:30 〜 15:00 G1-1_ポスター会場 (吉田南総合館北棟1-2階)

[G-P-31] 地中海西方アルボラン海における海洋堆積物間隙水の地球化学

*【ECS】尾張 聡子1,2、Ketzer Marcelo2、鈴木 渚1、d'Acremont Elia3、 Lafuerza Sara3、Leroy Sylvie3、Praeg Daniel3,4、Migeon Sébastien4、Oliveira de Sa Alana3 (1. 東京海洋大学、2. Linnaeus University、3. Sorbonne University、4. Géoazur)

キーワード:アルボラン海、堆積物コア、間隙水、ハロゲン

堆積盆における流体の移動は、メタン循環、地殻変動やジオハザード、海底下の微生物群集など、さまざまな地質学的プロセスに深く関わっている。地中海西方のアルボラン海は地殻変動が活発な海盆として知られ、海底からのメタンガス湧出に関連したポックマークや泥火山が観察される。本研究では、コンターライトが発達する海域において、ポックマークサイト(Site-CL06)、その近傍のバックグラウンドサイト(Site-CL04)、および断層サイト(Site-CL55)の堆積物コア(最大20m)から得られた間隙水に溶解するハロゲン(Cl、Br、I)を用い、アルボラン海の海底表層部の堆積物間隙水の起源を明らかすることを目的とした。
塩素は間隙水の地球化学において保存性成分と考えられており、その濃度は主に間隙水の塩分によって変化する。ヨウ素は強い生物親和性を持ち、堆積物とともに堆積した有機物中に取り込まれている。有機物は埋没過程で地熱や微生物の活動よって分解され、メタンを生成することから、ヨウ素とメタン濃度は強い相関を持つ。臭素も弱い生物親和性を持つことから、ヨウ素と同様の挙動を示すものの、塩素と同様に保存性成分とされ、流体の起源を明らかにする指標としても用いられる。
間隙水は船上にてライゾンサンプラーを使って抽出した。Cl濃度は東京海洋大学のイオンクロマトグラフィ(ICS-1600, DIONEX)で、IとBr濃度は東京大学タンデム加速器研究施設(MALT)の誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS Agilent 7500)で測定した。
ポックマークと断層サイトでは異なるハロゲンの深度プロファイルが観察され、アルボラン海のコンターライト内での流体の移動・起源は異なると考えられる。
(1) ポックマークとバックグラウンドサイト:この2サイトではハロゲンの深度プロファイルは類似する。Cl濃度は海底から海底下15mにかけて、610~590 mMまで深度とともに減少する。このサイトでの間隙水の低塩分化は、ODP Leg 161, Site976から得られた間隙水データとの比較から、サプロペルイベント1に相当する、淡水に富む間隙水が深部に存在することを示す(Paul et al., 2001)。IとBr濃度は深度とともに増加し(I:0~70μM、Br:760~820μM)、それぞれ、海底下15 m までに最大で8%と60%まで濃縮されている。これは、深部堆積物中にヨウ素・臭素に富んだ流体が存在することを示す。
(2) 断層サイト:他の2サイトとは対照的に、Cl濃度は海底から海底下16 mにかけて600~610mMまで深度とともに増加し、IとBr濃度も深度とともに増加傾向を示す(I:35~70 µM、Br:790~830 µM)。通常、海底近傍の間隙水中のIとBr濃度は、深部から海底表層に向かって低濃度化するが、本サイトでは、海底近くにも関わらず高濃度(I:38 µM、Br:800 µM)である。これらの特徴から、断層サイトは海底表層において強いハロゲンフラックスによって特徴づけられ、ハロゲンに富んだ流体が断層を介して表層まで移動している可能性を示す。