一般社団法人日本老年歯科医学会 第31回学術大会

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加齢変化・基礎研究

[P一般-079] 全部床義歯の装着が摂食嚥下時の舌骨運動に与える影響

○小野寺 彰平1、古屋 純一2、山本 尚徳1、佐藤 友秀1、玉田 泰嗣1、近藤 尚知1 (1. 岩手医科大学歯学部補綴・インプラント学講座、2. 東京医科歯科大学大学院地域・福祉口腔機能管理学分野)

【目的】
 高齢者においては,全部床義歯などの咬合や口腔の構造を変化させる有床義歯を装着することが多い。有床義歯の装着は咀嚼機能回復だけではなく,一連の摂食嚥下に関連する器官の円滑な運動に貢献すると考えられる。特に,舌骨の挙上運動は,嚥下において重要な役割を担っているが,その詳細は十分には明らかになっていない。そこで本研究では,全部床義歯の装着が嚥下時の舌骨運動に与える影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
 対象は,全部床義歯を装着して良好に使用しており,研究に同意の得られたボランティア25名(平均年齢:76.2±8.5歳)とした。無歯顎でも摂食可能なバリウム含有刻み寒天(4.0-5.6mm径,10 g)を義歯装着時と義歯非装着時の各条件で自由に摂食嚥下させ,嚥下時の舌骨運動を嚥下造影側面像にて観察した。得られた動画データを画像解析ソフト(Dipp-Motion V,Ditect)を用いて定量的に解析し,舌骨挙上運動の挙上距離,挙上時間,最前上方位維持時間,平均挙上速度を,義歯装着時と非装着時において比較した。統計学的手法は,Wilcoxon signed-rank testを用い,有意水準はすべて5 %とした。
【結果と考察】
 舌骨挙上運動の挙上距離および挙上時間は,義歯装着による有意な差は認めなかったが,挙上距離は義歯装着時に短縮する傾向を認めた。また,最前上方位維持時間は,義歯装着時において有意に延長した。さらに,平均挙上速度は義歯装着時において有意に減少した。無歯顎者に対する全部床義歯の装着は,固有口腔と口腔前庭を明確に区分し,解剖学的構造を回復することで食塊形成能を改善するだけでなく,咀嚼嚥下時の咬合支持を回復することで,嚥下時の舌骨挙上に必要な下顎の固定を担保する。嚥下による食塊の咽頭通過時の気道防御や食道入口部開大には,下顎と舌骨に連結された喉頭の挙上が重要であり,そのためには舌骨の最前上方位での挙上維持が重要な役割を果たすと考えられる。本研究の結果から,義歯装着は喉頭運動に関連する嚥下時の舌骨の最前上方位での挙上維持にも役立つことが明らかとなり,また,義歯非装着による負の影響を舌骨が代償的に運動速度を増加させることで嚥下運動の遂行を維持した可能性が示唆された。
(岩手医科大学歯学部倫理委員会承認番号 01150)
(COI開示:なし)