The 32nd Congress of the Japanese Society of Gerodontology

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認定医審査ポスター

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認定医審査ポスター

Fri. Jun 11, 2021 2:30 PM - 4:30 PM 認定医Line2 (Zoom)

[認定P-14] 認知機能低下の疑いのある患者に対し家族を交えながら義歯の製作および口腔機能の維持・向上を図った症例

○山内 茉椰1、上田 貴之1 (1. 東京歯科大学老年歯科補綴学講座)

【緒言】
 歯科診療に携わる中で、認知症を有する患者とたびたび遭遇する。今回、認知機能低下が疑われる患者の歯科診療を行い、本人への治療説明や口腔機能低下症への対応、家族とのコミュニケーション等、診療の際に様々な配慮が必要であると感じた症例を経験したので報告する。

【症例】
 77歳の男性。食事の際の義歯のかたつきと痛みを主訴に来院した。既往歴は高血圧症および狭心症である。診査の結果、義歯の咬合接触状態と床適合の不良および人工歯排列位置の不備に起因する疼痛・咀嚼障害と診断した。また、舌苔の付着に加え、硬いものが食べにくい、食欲がわかないという訴えから口腔機能低下症を疑い、口腔機能精密検査を行ったところ7項目全てに機能低下を認めた。義歯の咬合調整と粘膜面の調整により疼痛は軽減したが、安定不良は改善せず義歯を新製することとした。診療中に同じことを繰り返し尋ねたり、予約時間を間違えて来院したりすることがあったため、認知症を疑い改訂長谷川式簡易知能評価スケールを行った。24点/30点で非該当であったが、日付や単純な引き算を誤るなど不安が残る結果であった。念のため妻に同席を依頼し、今後の治療方針について説明を行った。
なお、本報告の発表について患者の代諾人から文書による同意を得ている。

【経過】
 義歯の新製とともに唾液線マッサージの指導、口腔清掃指導、舌の機能訓練等の口腔機能管理を行った。本人への説明のみでは口腔清掃状況に改善は見られず、口腔機能訓練を行っているかも曖昧であったため、電話で妻にも指導内容を伝え、一緒に管理を行ってもらうよう促した。次第に妻も同伴で来院し積極的に説明を受けるようになった。義歯調整後、定期検診に移行した。義歯装着半年後の口腔機能精密検査では口腔衛生状態不良および咀嚼機能低下は非該当となり、その他の項目も改善がみられた。現在、3か月ごとに経過観察を行っているが、義歯の疼痛や安定不良もなく、患者および家族の満足が得られている。

【考察】
 認知機能低下が疑われた本症例では、本人のみの指導では十分な理解が得られているかは疑問であった。家族とも電話を通じてコミュニケーションを取ることで、両者の意識の変化につながり、円滑な診療および口腔機能の改善を図ることができたと考える。また、口腔機能管理ではなるべく道具を使用せず気軽にできる訓練を採用したことも良好な結果につながったと思われる。