一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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認定医審査ポスター

2021年6月11日(金) 14:30 〜 16:30 認定医Line3 (Zoom)

[認定P-20] 長期歯科未受診高齢者に対して周術期口腔機能管理を行い,咀嚼機能が改善した一症例

○水谷 慎介1、柏﨑 晴彦1 (1. 九州大学大学院歯学研究院高齢者歯科学・全身管理歯科学分野)

【緒言】術後肺炎や気管挿管時の歯の損傷等の術後合併症を予防するため,周術期における口腔機能管理は重要である。一方で,手術を機に歯科を受診した患者も少なくはなく,高齢者では口腔機能が損なわれていることも多い。今回,手術を機に20年ぶりに歯科を受診した咀嚼機能障害を有する患者に対し,義歯製作により咀嚼機能の向上が得られた症例を経験したので報告する。

【症例】67歳男性。当院第二外科より胆嚢結石症に対する手術における周術期口腔管理の依頼があり当科を受診した。既往歴は,特発性血小板減少症,慢性心不全,持続性心房細動,慢性腎不全,睡眠時無呼吸症候群,高尿酸血症であり,初診時の血小板数は,1万/μLであった。歯冠を有する歯は15歯あるが,多くの歯にう蝕の進行や動揺を認めた。残根状態の歯は11歯あり,多くの咬合支持域が喪失していた(Eichnerの分類B3)。グルコセンサーを用いた咀嚼機能検査では34mg/dLであり,試料のグミはほとんど細断できていなかった。周術期口腔機能管理として,咀嚼機能障害に対して義歯製作を行い,また動揺歯に対してマウスプロテクターによる保護を行うこととした。保存困難歯については,医科主治医との協議により,患者の希望と全身的な状態を考慮したうえで抜歯処置は行わない方針となった。本報告の発表について患者本人から文書による同意を得ている。

【経過】義歯製作手順は通法従い進めたが,補綴前処置としての抜歯処置や歯肉縁下のSRPは行わなかった。保存困難歯を残根形態にし,清掃性の改善を行った。手術前に義歯の装着を行い,義歯調整後の咀嚼機能検査では166mg/dLと改善が認められた。入院後,外科手術前に5日間の大量ガンマグロブリン療法が行われ,血小板数が回復したところで,手術前の専門的な口腔ケアおよびマウスプロテクターの製作を行った。手術後の術後合併症はなく,退院した。月1度の医科受診時に歯科も受診しており,継続管理をしている。義歯装着半年後の咀嚼機能検査は204mg/dL,デンタルプレスケールⅡによる咬合圧検査は1094.4Nであり,良好な経過をたどっている。

【考察】一般に義歯製作前に保存困難歯は抜歯されるが,本症例では手術までのスケジュールおよび全身状態を考慮し,咀嚼機能の回復を優先した。その結果,咀嚼機能の改善が認められ、また周術期における合併症も認められなかった。