一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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認定医審査ポスター

2021年6月11日(金) 14:30 〜 16:30 認定医Line3 (Zoom)

[認定P-23] 統合失調症患者のオーラルジスキネジアによる褥瘡性潰瘍に対応した一例

○川谷 久子1、両角 祐子2 (1. 日本歯科大学新潟病院 訪問歯科口腔ケア科、2. 日本歯科大学新潟生命歯学部 歯周病学講座)

【緒言】
口腔内に生じる褥瘡性潰瘍は、齲歯や不適合な義歯による圧迫、パーキンソン病や口腔内の不随意運動(オーラルジスキネジア:以下OD)、舌、唇を噛む自咬癖によっても起こる。今回、精神科病院に入院中の統合失調症患者で褥瘡性潰瘍への対応に苦慮した症例を経験したので報告する。
【症例】
76歳、男性。動揺歯と口内炎を主訴に入院中の精神科病院より訪問歯科診療の依頼を受けた。疾患は統合失調症と知的能力障害で意思疎通は図れない。ODの原因と考えられる定型抗精神病薬の内服はない。食事形態は粥、ミキサー。上顎は左側犬歯のみ、下顎は左側犬歯を含む9歯が残存していた。義歯はあるが使用しておらず、常時開閉口を繰り返すODを認め、上唇を口腔内に巻き込んでいた。上顎左側犬歯部の上唇から粘膜にかけて潰瘍の形成を認めた。また上顎右側臼歯部顎堤にも、下顎臼歯部の接触による潰瘍形成を認めた。両部位とも硬結、出血はなかった。なお、本報告の発表について代諾者から同意を得ている。
【経過】
初診時に3度の動揺を認めた下顎左側第二大臼歯の抜歯を行った。初診1週後、上顎左側犬歯の抜歯と上顎義歯の増歯及び床下粘膜調整処置を行い、常に義歯を装着することで下顎臼歯の刺激を除去することにした。初診2週後に上口唇の潰瘍は改善を認めたが、上顎右側臼歯部の潰瘍は改善を認めなかった。初診2か月後、徐々に潰瘍は縮小した。初診3か月後から精神状態の悪化により、義歯を入れると不穏となり、装着できないと看護師より報告を受けた。初診4か月後に潰瘍からの排膿と右側頬部の腫脹を認めたため、3回に分けて下顎残存歯(下顎右側第二、第一大臼歯、下顎右側第二小臼歯、下顎左右側犬歯、下顎左右側中切歯)をすべて抜歯した。抜歯から約4か月で潰瘍は縮小した。
【考察】
本症例はODによる不随意運動があり、訪問歯科診療において潰瘍の原因となる多数歯抜歯は困難と判断し、義歯を装着することで刺激を除去する治療方針とした。一時的に症状の改善を認めたが精神状態の悪化により義歯が総着できず潰瘍の悪化が認められ、多数歯抜歯への治療方針の変更が必要になった。訪問歯科診療の対象となる患者は、精神疾患や認知症など意思疎通が図れずに積極的な診療が困難なケースが多い。しかし、全身状況や日内変動に合わせて最善を尽くす治療方針への変更が必要であると考える。