一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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認定医審査ポスター

2021年6月11日(金) 14:30 〜 16:30 認定医Line4 (Zoom)

[認定P-25] ALS患者に対し歯科補綴的アプローチを行った後
多職種が協力して経口摂取を維持している一症例

○樋口 和徳1、松尾 浩一郎2 (1. みんなの歯医者さん、2. 東京医科歯科大学大学院地域・福祉口腔機能管理学分野)

【緒言】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は運動ニューロンの進行性変性疾患である。今回,歯科補綴的アプローチによりALS患者の口腔期障害に対応した後に多職種で協力して食支援をし,長期間経口摂取を維持している症例を報告する。
【症例】
71歳男性。口腔内は上下無歯顎で総入れ歯を使用していた。2015年4月にALSと診断され,同年10月に義歯の不具合および今後の嚥下機能への不安を主訴に当院訪問歯科診療が開始となった。なお,本報告の発表について患者の家族から文書による同意を得ている。
【経過】
2015年10月の初回介入時,食形態は普通食で明らかな摂食嚥下障害,口腔内の食渣残留及び食事時間の延長は見られなかったため義歯の調節および舌機能訓練を行いつつ経過を観察した。2016年3月,四肢等の筋力低下や呼吸不全が急速に進行したため入院下で気管切開,胃瘻が造設され,同年4月に在宅療養を再開したが食形態はミキサー食に変更となった。食塊の咽頭への送り込みに考慮した上顎義歯の新製,言語聴覚士による摂食機能訓練,摂食機能療法専門歯科医師による評価を行ったところ,同年12月のVE検査においてミキサー食から普通食レベルへ食形態を上げることができた。
同時に主治医,看護師,ケアマネージャー,栄養士など多職種で患者の情報を共有する体制を整え,定期的に集まって患者の嚥下機能を評価,ディスカッションする機会を作った。また,妻に対しても食事指導等を実施した。誤嚥性肺炎に罹患するなど徐々に咽頭機能の低下は見られたが,2017年8月には27kPaであった舌圧は2019年には40kPaに回復するなど口腔機能は良好に維持され,咀嚼や食塊形成にも問題は見られなかった。安全に食事を続けたいとの希望があり,2019年8月に喉頭気管分離術を行い介入より5年以上経過した現在も経口摂取を維持している。現在も食形態は普通食を摂取しており,本人・家族の希望におおむね沿った食事を続けている。
【考察】
ALS患者に対して発症初期より介入し,継続的に歯科補綴的アプローチをするとともに多職種が協力して患者にアプローチできる環境を整備することにより食形態の変更のタイミングや,喉頭気管分離術の導入など誤嚥防止のための処置を的確に判断する事ができ,ALSと診断されてから5年以上経口摂取を維持することができている。