一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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連携医療・地域医療

[P一般-043] 地域共生社会における老々介護へのシームレスケアの提供に困難さがみられた1例

○市川 一國1、田中 陽子1、矢口 学1、野本 たかと1 (1. 日本大学松戸歯学部障害者歯科学講座)

【目的】

 地域での生活支援が落ち着くまでに時間を要したことで機能低下が進み,シームレスケアの提供に課題があると思われた症例を経験したため報告する。発表にあたり家族に説明同意を得ている。

【症例の概要と処置】

 83歳男性,脳血管性認知症。改訂長谷川式簡易知能評価スケールは2,Japan Coma ScaleはII-20であった。四肢に麻痺はないが,筋力低下で歩行不可,頸部に拘縮を認め可動制限を認めた。転倒による硬膜下血種とクモ膜下出血で入院した。発症から8か月でサービス付き高齢者向け住宅に入居後誤嚥性肺炎を発症し再入院した。医療機関での嚥下機能検査ではペースト食と高度トロミの指示であった。退院し再入居後に摂食機能評価と指導が当院に依頼された。主訴は口から形のあるものを食べ,自宅に戻りたいとのことであった。残存歯数27本であり,舌の可動域制限はなく,両側の咬合支持であった。咀嚼回数も多く,喉頭挙上も認められた。口腔内の残留は認めなかった。当院での嚥下内視鏡検査では,良好な食塊形成が確認でき,咽頭部の形態異常および麻痺は認めなかった。嚥下反射の惹起遅延も認めなかったが,複数回嚥下後の咽頭残留と,喉頭侵入を認めた。兵頭スコアは2で経口摂取可能と判断した。頸部ROM訓練と開口訓練を導入した。その後軟飯,マッシュ食となり,水分も薄いトロミで状態が安定した。妻の希望で自宅での老々介護生活へ移行した。しかしながら,体重減少に伴う明らかな外的所見の変化を認めた。多職種が頻回に介入することで食事時間の確保が出来ず1日1食となっていた。身体および認知機能の著しい低下を認めたため,在宅医に栄養補助食品の検討ならびにケアマネジャーに介護支援介入方法の再検討を依頼した。改善後4か月で安定し現在,機能低下はあるが,覚醒状態の良い時は意味のある発音明瞭な発語や数歩の歩行が可能な時が増え,経口摂取も継続している。

【結果と考察】

 自宅での生活は理想的な形態であるものの,高齢後期になってからの環境変化は当事者にとっては一時的に大きな負担となる。要介護者および介護者ともに,環境適応性は低く急激な多職種介入が逆効果を生む可能性もあるのではないかと思われた。住み慣れた自宅への移行でもシームレスケアの提供には,事前に行う環境適応能力維持のためのプログラムなどが必要ではないだろうか。(COI開示:なし)