一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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地域歯科医療部門

[P一般-024] AHN導入終末期患者で、多職種と連携しながらナラティブなアプローチで経口摂取の可能性を検討した症例

○岩男 恵理子1、大保 直道2、中尾 祐3 (1. 医療法人福和会 和泉二島予防歯科クリニック、2. 行橋グリーン歯科医院、3. 別府歯科医院)

【目的】
 胃瘻(PEG)・在宅医療研究会倫理委員会は、人工的水分・栄養補給法(AHN)は永続的ではなく、随時全身状態や摂食嚥下機能、患者環境を考慮しながら他の方法への変更を検討するべきであるとしている。しかしその検討がなされないまま終末期を経過する例は多い。摂食機能障害の精密検査として嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)があるが、全症例に行うことは難しく、特に終末期患者においては過剰な検査や苦痛を回避したい、でも最後に何か口から食べることはできないかという願いが患者家族にあるのも事実である。今回当院訪問診療にてVE、VFを用いず経口摂取の可能性を検討した症例を報告する。
【症例の概要と処置】
 症例1: 80歳女性。特別養護老人ホーム入居中で統合失調症、アルツハイマー型認知症の既往あり。PEG造設3週間後、介護職員より飲み物だけでも飲めないかと受診依頼。症例2: 94歳女性。特別養護老人ホームに入居中で脳梗塞、認知症の既往あり。PEG造設1か月後、家族より少しでも食べられないかと依頼があった。始めにケアマネジャー、介護職、家族とミーティングを行い、経口摂取の可能性を検討する意義、精密検査としてVE、VFがあること、今後嚥下評価を行う中での誤嚥性肺炎や窒息のリスク、経口摂取が全員の同意の元であることなど方向性の確認を行った。精密検査は回避したいとのことだったため西村らが報告したVEを用いない摂食嚥下障害臨床的重症度分類判定を参考に機能評価し、患者環境に応じた摂食プランを検討した。食介助方法については繰り返しアドバイスし、介護職員の負担にならないようにも配慮した。家族には患者に食を提供する喜びを感じてもらう時間を可能な限り設け、書面での経過報告も定期的に行った。
【結果と考察】
 症例1は歯科専門職による摂食訓練として週2回とろみ付きジュース摂取を、症例2は1日1回介護職によるゼリーなどの間食提供で経口摂取を維持し、安定して過ごされている。患者家族や介護職と関わりを持つ中でPEG造設に罪悪感を持っていたことに気付かされ、ナラティブな対応で経口摂取の可能性を検討することが訪問歯科の場で大きなニーズとなっていると感じた。多職種と連携し患者環境をすりあわせ、患者と患者家族、終末期の食を支えることが訪問歯科医療の責務と考える。
COI開示: なし