一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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症例・施設

[P一般-070] 歯科衛生士による訪問指導で栄養状態の回復に寄与した症例

○関 麻衣子1、戸原 雄2、福井 智子1、加藤 真莉1、飯島 裕之1 (1. 杉並区歯科保健医療センター、2. 日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニック)

【目的】
 今回,要介護高齢者に対し歯科衛生士(以下:DH)による居宅療養管理指導(以下:単独訪問)を利用した訪問指導を行ったことで栄養状態の回復に寄与した1例を通して,その意義を検討する。
【症例の概要と処置】
 91歳,女性,要介護2,令和2年8月頃より食欲低下,痰が増えてきたとの家族からの訴えに基づき同年10月より訪問診療を開始した。主な既往歴として,訪問前年に亜急性心筋梗塞のため緊急入院し,ステント手術を行い同月に退院したのちに上記の症状が出現したとのことだった。初診時の食事形態は常食,水分にはとろみは付与されていなかった。体重は48.8kgで,1年前より3kg減少が認められている。口腔内の状態はう蝕や欠損歯はないものの,清掃状態は不良だった。改定水のみテストを行ったところムセを認めた。初回訪問時は嚥下内視鏡下検査(以下:VE)の提案をし,11月に実施した。VE所見として,肉や硬さの残る野菜は一部喉頭蓋谷に残留を認め,交互嚥下が必要な状態だった。そのため,検査当日は交互嚥下を行うこと,体重低下に対する栄養補助食品の提案,嚥下機能の向上を目的とした嚥下機能訓練(以下:訓練)を実施することにした。残存歯が多く口腔清掃が困難だったことに加え,訓練習得に対する家族の不安が強かったことから DHによる単独訪問での口腔衛生管理(以下:ケア),訓練のサポートを提案し12月より月1回介入を開始した。体重は増加し2か月後には入院前の状態に戻った。同月に転倒し左手首を骨折し,ADLが低下した。ケアは本人のみで行っていたため歯間部や歯頚部のプラーク残留が目立つ状態となり,自力でのケアの方法と家族への指導を加えて現在も介入を継続している。
【結果と考察】
 今回,比較的嚥下機能の低下が軽微な段階から栄養改善を目標に介入を行うことができたため,短期間で効果を示したと考える。DHの訪問指導は患者や患者家族との距離感が近く,不安や変化に早期に気付くことに有効であると考えた。患者,家族は,DHによる訪問指導により訓練などに積極的に取り組む姿勢がみられた。今後,手首骨折に伴い自力でのケアがより困難になると想定されるため,家族に対しケアの介助の提案を検討している。また家族の希望している食べる楽しみを忘れずに食事をさせたいという思いを尊重する指導を積極的に行い,多職種とも連携し,円滑に訪問指導を行っていきたい。