一般社団法人日本老年歯科医学会 第32回学術大会

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症例・施設

[P一般-081] 超選択的動注化学放射線療法を行った高齢下唇癌患者の1例

○高橋 悠1、小根山 隆浩2、佐久間 要1、田中 彰1 (1. 日本歯科大学新潟生命歯学部口腔外科学講座、2. 日本歯科大学新潟病院口腔外科)

【目的】

超選択的動注化学放射線療法はStage IIIやIVの手術困難や拒否症例に適応されることが多いが、高濃度の抗癌薬を直接腫瘍に投与できることから腫瘍制御可能な治療法でもある。今回我々は、頸部リンパ節転移を有する高齢下唇癌患者に対し、超選択的動注化学放射線療法により腫瘍を制御した症例を経験したので報告する。

【症例の概要と処置】

86歳の男性。主訴:唇の傷が治らない。既往歴:COPD、アルコール性肝障害、高血圧症、甲状腺機能低下症、特発性血小板減少症。現病歴:201X年11月頃右側下唇の潰瘍を自覚するも放置。改善ないため12月末に紹介医受診し、生検術にて中分化型扁平上皮癌と診断され、精査治療のため当科紹介来院となった。現症:右側下唇にφ15mm大の中心潰瘍と周囲硬結を伴う腫瘍を認めた。右側顎下後方にφ10mm程度でやや弾性硬、可動性、軽度圧痛を伴うリンパ節を触知した。画像所見:原発巣は描出困難であり、右側顎下にCTで内部やや不均一に造影されるリンパ節を認めた。シンチグラフィでは明らかな集積は認めなかった。臨床診断:右側下唇癌、頸部リンパ節転移(T1N1M0、StageⅢ)。治療は、COPDにより長時間の全身麻酔が困難なこと、口裂狭小に伴う義歯装着困難などを考慮し、超選択的動注化学放射線療法を選択した。浅側頭動脈から逆行性にカテーテルを顔面動脈に留置し、CDDP total 150mg(25mg/body/週×6回)、ライナック外照射total 60Gy(2Gy×35fr)施行した。治療は中断せずに完遂し、治療後3年再発転移なく経過良好であったが、全身状態の低下により通院困難となった。

【結果と考察】

高齢者のがん治療では、基礎疾患や認知機能の低下により標準的な治療が困難な場合が多いものの、適切な治療法の選択により良好な結果を得ることも可能と考えるが、基礎疾患などの合併も多く、治療法の選択には様々な機能評価を行い判断する必要がある。選択的動注化学療法は口腔癌治療の選択肢の1つとされ、中和剤を用いることで副作用を軽減できることから、手術困難な高齢者にも適応可能な治療法の1つと考える。今回の症例では頸部リンパ節転移に対しても顔面動脈を用いることで制御可能であった。患者のQOLを維持できたものと思われ、超選択動注化学放射線療法は高齢口腔癌患者に有効な治療法の1つである。